恋愛において、人を不幸にすることは、愛しているのに愛されぬよりも、もはや愛してもいないのにまだ愛されていることだ。デュマ・ペールの『ペリール嬢』より 
 

 予感はしていた。

 相談があるの――、女性がこういう台詞を口にしたとき、私の経験から言えるのは、彼女が独身で、カレシがいれば、最近あの人とうまくいってないの。といった内容が大半。彼女が既婚者である場合は、たいがいは最近あの人とうまくいってないの。というものだ。

 原稿を書いている暇もないくらい忙しいこの私を呼び出した彼女は、後者だった。

 電話をもらったときにある程度の想像はしていて、待ち合わせた喫茶店に彼女が遅れて姿を見せたとき、予感は確信に変わった。

 大きなサングラスをした彼女の目のふちには、青あざが残っていた。でも、そんなことは私が知らないだけで、しょっちゅうだったらしい。

「いま、実家にいるのか」

 うん、と彼女は応える。すると、彼女が家を飛び出して実家に戻ったのは、私の知るかぎりではこれが三回目ということになる。彼女の実家は都内にある。だから、家を出たと言っても、ほんの小一時間ほどの距離だ。

「わかってんだろうな。三度目だぞ、三度目。まさか、今度もまたあいつのところに戻るとか言うんじゃないだろうな」
 「うん、今度こそ戻らない。そのつもりで出てきた」
 「信用できないね、きみは」

 私は、わざと悪態をつく。夫の暴力に耐えかねて、彼女が実家に逃げ帰るたびに私は相談を受け、とっとと別れろと説得してきた。

 にもかかわらず、そのたびに彼女はあのクソばか野郎のところに戻っていった。
  そして、殴られる。

「だから言ったんだ、あのとき――」

 と言いかけて、私は口をつぐむ。

 だからあのとき俺と一緒になってればよかったんだ……、なんてことは言わない。そんなことを口にしたらたいへんな誤解を招く。