まずは「全体を先に見渡す」ことで覚えをよくする

 今でこそ私は速読を教えていますが、昔は、私自身も読むのが非常に遅く、本を読むことがあまり好きではありませんでした。

 社会人になってからも、職業がシステムエンジニアだったこともあって、調べ物はインターネットが基本でした。本を読む機会は減り、本を読もうとすると、ページを開くだけでうんざりとした気持ちになっていたのです。

 上司から「マンガ版なら読めるだろう」と言われて本を薦められたときも、その本を見て「結局文字だらけで、絵はただ会話している人が書かれているだけじゃん!」と数ページ読んで投げ出したこともありました。

 無理にでも読まなければならない教材やマニュアルのような本は、数ページ読んだだけで集中力が切れてしまい、1冊を読み切ることはまずありませんでした。

 当時の私を含め、読むのが遅い人によく見られるアクションの一つに、1ページ1ページをしっかり覚えようと思いながら読もうとする癖があります。

 1ページ目から読み始め、3ページ先あたりまで読み進めたところで、「前のページに書いてあった内容、何だったっけ?」と思って、また1ページ目から読み返す。読んでいる途中でいろんなことを考えてしまい、また1ページ目に戻って読み直して……を繰り返しているうちに、その本は読まなくなってしまい、本自体を読まなくなるという悪循環に陥ってしまうのです。

 つまり、読むのが遅いのではなくて、読まずに考えている時間が長くなっているだけなのです。

 私自身、速読を実際に学んで、1冊を読み切れるようになったときに気づいたのですが、本の前半部分だけ読んでもなかなかピンと来ない場合があります。

 これは本の構成が原因です。

 たとえば、脳の特徴を活かしたメソッドが書かれている本があるとします。読み手によっては、「メソッドがわかればいい」と思う人もいれば、「なぜそのメソッドがいいのか」について納得しないと実践できないと思う人もいます。

 後者の読み手のことを考えると、前半に理論的な脳のメカニズムの話をしたうえで、その話を前提条件としながら、後半にメソッドの話を書く必要があります。

 しかしその文章を前者の読み手が、脳のメカニズムから読み始めると、何の話をしているのか、ピンと来なくなってしまうのです。

 この場合は、1冊全体を見渡した後で、再度前半部分を読み返してみると、わかりにくいと思っていた前半部分の内容と、結論のメソッドを関連付けながら読むことができるので、内容が理解しやすくなるのです。

 読むのが遅いと悩んでいる人は、「木を数えて林を忘れる」状態になっていて、1本の木にとらわれすぎていると、林全体が見えず、その本全体を通して伝えたいこと、本質的な考え方が理解できない状態になってしまうのです。

 私が考える「理解」とは、「気づきや閃きを得ること」です。

 本にある言葉や文章から自分の中でイメージをつくり出し、そのイメージから何か気づきや閃きを得ることによって、解決案が思い浮かんだり、新しい考え方を学んだりすることができるのです。

 この気づきや閃きをより多く得るためには、一つひとつの木を見ていくよりも、林を見渡しながら、自分が気になる木を詳しく調べていくほうが速く、より多くの理解を得ることができます。

 まず林を見渡すためには、1冊を速く読み切る感覚を身につける必要があるので、ただ速く読もうとするだけでも十分意味はあるのです。

なぜ速く読んでも覚えられるのか?<前編><br />

■参考文献
「速読は実は不可能だと科学が実証」
「速く読んで覚えられる最強の読書術」