機能の拡張より、「どのように使うか」というフェーズに

長谷川:最先端のロボットの研究の現場から見た、ロボットの現状をお聞きしたいです。

中嶋:傍目にはロボットはすごい速度で進化していて、AIとも組み合わさり、人類を脅かすと言われることもあります。

長谷川:それはよく聞きます。仕事がなくなるとか…。

中嶋:でも、人類を脅かすことは、まだロボットにはできなさそうです(笑)。なぜかというと、ロボットは「ブレ」への対応ができないからです。人間は臨機応変に状況に対応できますが、ロボットはまだ決まったことしかできません。
仕事にはブレのあるタスクとないタスクがあります。ブレのないタスクに対してはロボットは人よりもうまく、早くできます。産業用ロボットが普及したのは、「ここを溶接する」「ここにネジをはめる」のようにタスクが明確だったからです。サービスロボットは、この切り分けがうまくできず、なんでもロボットにやらせようとして失敗してきたのです。

長谷川:介護現場では、歩行をアシストするサイボーグ型ロボットのHAL®(下記写真)が使われていますが、これはどのようにタスクを切り分けているのでしょうか?

中嶋:「歩く」「曲がる」といった大元の判断は人間がしています。HAL®がアシストするのは、実際の足の動きです。歩行全体にかかわるタスクのブレへの対応は人間が行なっているために、うまく使うことができているのです。

長谷川:人間といい融合の仕方をしているんですね。これもある意味「サイボーグ化」の一つですね。

中嶋:はい。介護の中でも、「トイレへの移動」など、切り取ってできる部分をロボットが担当しています。ある程度「定型」「繰り返し」「型が決まっている」サービスの分野に、ロボットが入るようになってきました。

「この部分はロボット、この部分は人」とうまくタスクを切り分けることができると、ロボット使用の可能性はもっと広がっていきます。ロボットのビジネスが成り立つか成り立たないかは、使う私たちに、この切り分けができるかどうかにかかっているのです。

個性の強い子の能力を社会とつなぐロボット教室

第1回 ロボットとのかかわり長谷川 敦弥(はせがわ・あつみ)
1985年生まれ。2008年名古屋大学理学部数理学科卒業。2009年8月に株式会社LITALICO(リタリコ)代表取締役社長に就任。「障害のない社会をつくる」というビジョンを掲げ、障害のある方に向けた就労支援サービスを全国66ヵ所、発達障害のある子どもを中心とした教育サービスを全国98教室、小中学生にプログラミングを教える「IT×ものづくり」教室(9拠点)などを展開。2018年3月、東証一部に上場。企業理念は「世界を変え、社員を幸せに」。

中嶋:LITALICOでは、子ども向けのロボット教室、プログラミング教室を展開していますが、どのような思いからロボット教室を始めたのでしょうか?

長谷川私たちの事業のスタートは、障害のある方への就職支援のサービスでした。これまで1万人以上の障害のある方の支援をしてきましたが、障害種別でいえば、精神疾患の方が多くを占めています。支援をする中で、なぜ彼らが精神疾患になったのかを一緒に振り返っていくと、幼い頃からの「失敗体験の積み重ね」によるものが多かったのです。

肌感覚ですが、若年性で発症した人が、3~4割。同時に、とてもユニークな方が多いということにも気づかされました。そこで私たちが立てた仮説は、「ユニークな子どもに合った教育環境がなかったことで、失敗体験を重ね自己肯定感を下げ、精神疾患になったのではないか」というものです。

もしそうであるなら、ユニークな子どもに合った教育を自分たちで作ろうと。この仮説から教育事業がスタートしました。

中嶋 現状の教育制度では、ちょっとずれてしまう子どもたちの居場所を作るということですね。

長谷川 はい。そして、その教育事業は現在「LITALICOジュニア」として、全国98の拠点で展開しています(2018年3月現在)。自閉症、学習障害、ADHDなどのお子さんが、自分に合った教材や指導方法で、能力を伸ばしています。子どもそれぞれの認知の特性や興味・関心に合わせて教材もカスタマイズしていますから、楽しく学習できるのです。

中嶋:教室数は98もあるんですか。それだけ需要があったと。

長谷川:そうですね。そして、この「ジュニア」の教室でたくさんのお子さん達と関わる中で、もう一つの気づきがありました。ここで学ぶ子ども達には「好きなことにすごく熱中する」という傾向があったのです。