多様性のある社会だから、ロボットが活躍できる

長谷川:多様性のある社会をつくるときには、ロボットは使えると思います。多様性のある社会というのは、すごく複雑な社会です。人間を「国語・算数・理科・社会」の点数だけでなく、いろんなラベル、個性で見ることになります。

例えば就職活動を考えたとき、人間の知識の範囲内で、個々人が持っている個性のラベルをどれくらい判断できるかというと、そんなに多くはできません。男だった女だった。身長はこれくらいだった。こんなことを言っていた、興味関心はここにあるなど、人間が一度に処理できる情報は、それほど多くないからです。

しかし、就職活動をする学生側からしてみれば、「私はこういうポイントを見てほしい」というラベルが、それこそ何千種類もあるわけです。そういう多様なラベルを判断して、一つの方向性を見つけるのは、人間では難しいと思います。

中嶋:実際にそのようなAI(人工知能)を使った利用者支援をされているとお聞ききしましたが、具体的にどのように活用されているのですか?

長谷川:「自殺の予防」のために、AIを使っています。精神疾患の方の中には、自殺を含めた自傷行為に及ぶ方がいます。そうなる前にそのリスクに気がつくことが、私達に求められているのです。例えば自殺のリスクが高まる背景には、緊張状態、衝動性の高まり、うつの悪化などの原因があります。精神疾患の方の就職支援をする専門家とはいえ、そのリスクに皆が一様に気がつくのは難しい。そこで、AIが過去の膨大なデータから学習し、これらの原因を見つけ出し、アラートを出すようになっています。

中嶋:どのようにAIは、情報を取り入れるのですか?

長谷川:利用者の支援記録のテキストデータを入力しています。学習データを基に、人工知能が毎回リスクの高い人を示してくれます。それを最終的には専門家が本人と面談をして、リスクが本当にあるかどうかを判断し、必要な場合は家族や医者と連携をとります。ここはロボットでは代替ができない部分です。

中嶋:最後は人が入るのですね。これもAIと人との分業といえそうですね。

長谷川:そうですね。最終的な判断と、その後のコーディネート部分は、AIやロボットには代替できない部分です。しかし、リスクの大きな人をある一定人数まで絞ってくれるため、専門家の仕事が減りますし、その分の時間を人でしかできないことに振り向けることができます。同じようにいじめや虐待を受けている子どもを発見したり、自己肯定感下がっている子どもを見つけたりすることができるのではないかと考えています。画像認識が加われば、表情の変化でわかるようになり、さらに精度が上がるかもしれません。

中嶋:画像認識は今伸びている分野ですから、期待が持てそうですね。

長谷川:相手のコンディションは、電話ではわからないものなのです。会ったときの身だしなみ、ひげが伸びている、顔色が悪い、表情に変化がない、太り気味、クマができている……など。そういった変化を、私たちは総合的に判断して「この人には今、助けが必要だ」と判断します。コンピューターは、それを学習することができます。そうすれば、状態の悪い人を絞り込むことができ、それを専門家が判断する……ということができるはずです。

パーソナルモビリティビークル(PMV)は普及するか?

中嶋:超高齢社会になる中で、電動車椅子、ロボット車椅子などの「1人乗り車両」のニーズは増えるとお考えですか? 電動車椅子の開発へ投資している、現場の感覚としてはいかがでしょう?

長谷川:3年という単位では難しいでしょうが、20年といったスパンで見れば徐々に増えていくと思います。その間にベンチャーが挑める環境も整ってくるはずです。

中嶋:長谷川社長のように、こういった分野に投資をする人も増えるでしょうか?

長谷川:ここには大きなチャンスがあると考えています。

中嶋:これまでもいろいろな方がPMVの予想をしているのですが、ことごとく外れていて(笑)。開発をしている側としては、期待をしたいのですが。広がるためには、何がポイントになると思われますか?

長谷川:世の中のニーズに対応する、商品として「いいもの」ができれば広がっていくと思います。そのためにはロボット分野において、「テクノロジー」の面だけでなくマーケティングやデザインなどを含めた「ビジネス」として成立させることのできる優秀な事業家が必要です。

中嶋:これまではロボットビジネスというと、ロボットを作る人が中心でした。しかし、ロボットを「活用する」というフェーズになった今日、長谷川社長のようにロボットを使う人、そしてそのロボットでサービスを受ける人が、ビジネスの中心になっていくのかもしれません。

今日は本当にありがとうございました。

中嶋秀朗(なかじま しゅうろう)
日本ロボット学会理事、和歌山大学システム工学部システム工学科教授。1973年生まれ。東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻修了。2007年より千葉工業大学工学部未来ロボティクス学科准教授(2013-14年、カリフォルニア大学バークレー校 客員研究員)を経て現職。専門は知能機械学・機械システム(ロボティクス、メカトロニクス)、知能ロボティクス(知能ロボット、応用情報技術論)。2016年、スイスで第1回が行われた義手、義足などを使ったオリンピックである「サイバスロン2016」に「パワード車いす部門(Powered wheelchair)」で出場、世界4位。電気学会より第73回電気学術振興賞進歩賞(2017年)、在日ドイツ商工会議所よりGerman Innovation Award - Gottfried Wagener Prize(2017年)、2017年度日本機械学会関西支部賞(研究賞)、共著に『はじめてのメカトロニクス実践設計』(講談社)がある。