CEOの約40%がMBA取得者であるという研究もあるが、理論一辺倒のリーダーシップは、チームからの信頼を損ない、生産性を低下させることがわかっている。真のリーダーは、理屈でリードするだけでなく、心でもリードしなければならない。そのために必要なのが、自己認識(セルフアウェアネス)である。本記事では、自己認識を強化する3つのステップが示される。


 ヴィンセント・シシリアーノがCEOに就任したのは、カリフォルニアに本拠を置くニュー・リソース・バンクの経営再建と、「より持続可能な世界を構築している、価値主導型の企業と非営利団体にサービスを提供する」という、創立時のミッションの復興を託されてのことだった。ヴィンセントの就任後、数年のうちに同行の経営は回復したが、見かけほど万事がうまくいっているわけではなかった。

 移行期を経てすべてが軌道に乗った段階で、首脳陣は、組織の現状についてアンケート調査を実施した。その結果、従業員のエンゲージメント・レベルの低さと最高幹部への不満が、思いがけず明らかになった。

 ヴィンセントは驚いたが、現在の不和は組織がくぐり抜けてきた多くの変革の名残であろうと考え、あえて行動を起こさなかった。時がすべて解決してくれるはずだった。

 1年後、同行はあらためて従業員を対象にアンケート調査を実施した。今回の結果は、より具体的だった。士気の低下が深刻な問題であること、そして、経営上層部のメンバーを含む大多数の人が、その根本的原因はヴィンセントにあると見なしていることが明らかになったのだ。

 ヴィンセントは打ちひしがれた。そして、怒りと憤慨、弁解と非難の間を揺れ動いた。「私のことをよくもこんな悪く言えたものだ。私のリーダーシップのおかげで、ここまでやり遂げられたことをわかっていないのか」と不思議でならなかった。

 こうしたネガティブ思考を続け、自己憐憫に浸って、言い訳を探し続けることもできただろう。だが、これまでのキャリアで常に優れた成功者であり続けたヴィンセントは、意を決して不愉快な真実と向き合った。

 彼は、自分で思っていたほど偉大なリーダーではなかったのだ。定石通りにリードするだけで、短期間で変化を受け入れる準備ができていなかったり、変革実施の理由がわからなかったりしている部下たちの気持ちはそっちのけだった。

 ヴィンセントは我々に、こう語った。「エゴが一人歩きしていました。頭でリードするだけで、心でリードしていなかったのです」

 何年にもわたって経営学の教育を受け、専門能力の開発を続け、さまざまなスキルを培ってきたものの、ヴィンセントは鏡に映った自分をじっと見つめるよう指示されたことは、それまで一度もなかったと気づいた。自分が誰で、何に価値を見出しているのか、リーダーであることの真の意味は何か、と自問したことなど一度もなかったのだ。

 それを実行して以来、同行のチームワークと、従業員アンケート調査の結果は劇的に改善した。現在では、高いパフォーマンスを誇るチームが、人間関係と成果の両面を重視して取り組んでいる。