「脳の懐中電灯」に振り回されずに生きるには?

 意識の集中によって、見ようと思っているものだけに注意が向けられ、重要な情報を見逃してしまうケースがあることを実証した面白い例が、「見えないゴリラ」実験だ。ぜひみなさんもオンラインで「見えないゴリラ」と検索して、自分の目で体験してみてほしい。この実験の被験者たちは、白いシャツと黒いシャツのチームによるバスケットボールの試合を画面上で観戦していた。彼らは白シャツ・チームのパスの回数を数えるよう指示されていた。実験では、なんと途中でゴリラの着ぐるみを着た人物がコートの画面のど真ん中を横切った。ところが、被験者の大半は、白シャツ・チームのパスの回数を数えることに集中していたので、ゴリラの登場に気づかなかったのだ。

 集中するあまりゴリラを見逃してしまうとしたら、私たちは人生でほかに何を見逃しているのだろう?

 自社を成長させることに集中するあまり、競合企業が裏で着々と勢いを伸ばしていることに気づかない経営者。

 誰かを愛するあまり、相手の態度の変化に気づかず、振られたあとで「そんなそぶりはなかったのに」と悲しげに弁明する男性。

 患者の不安の感情的な原因を探ることに気を取られるあまり、副腎の問題を調べ忘れる精神科医〔副腎が疲労すると感情や肉体にさまざまな変調をきたすとされる〕。

 ことわざにもあるとおり、ハンマー(=医学の専門分野)を持つ人にはすべてが釘(=偏った診断)に見えるものなのだ。

 視野の狭まりや偏った注意とかかわっているのが「過集中」の問題だ。過集中の状態に陥ると、あなたにとって本当に大切なものが時に見えなくなる。たとえば、大学で学問に熱中するあまり、人と交流したりデートしたりするのを“忘れ”、あとになって人生のパートナーを探すのに苦労する。

 私はセラピストとしてこの現象をよく目撃する。学術用語では「時間割引」とも呼ばれ、遠い将来の物事の価値を低く見積もる脳の傾向を意味する。数々の研究結果が示すように、時間割引は人間の脳にもともと備わっている性質だ。時間割引は人間があとになって何かを後悔する最大の原因のひとつだと思う。私たちは必要に応じて長期的な視点を使い分けることが苦手なのだ。

 では、具体的にどうすればいいのか?あなたを奮い立たせる「集中」とあなたの脳を硬直化させ疲れさせる「集中」、その中庸はどこにあるのだろう?ズームインとズームアウトのちょうどいいバランスを実現するには?その答えは、私が「非集中(アンフォーカス)」と呼んでいる能力を身につけることにある