かけがえのない存在になることは自己陶酔か

 ビジネス書の世界では、新入社員に向かって「なくてはならない存在になれ」と語られています。しかし、その人がいないと仕事が回らないという状況になったとしたら、息苦しさが募り、生きるのがしんどくなってしまうと思うのです。

 大組織の会社ではなく、小さな個人商店ではそういう人が現実に存在します。

 うつ病になってしまったその人は、仕事を休んだほうがいい状態でした。でも、その人は絶対に休めないといいます。

「いまは肉体的には大丈夫ですが、急に盲腸になったりしたらどうするのですか?」

 そう尋ねても、患者さんは絶対に無理だと繰り返すばかりです。

「私がいないと、従業員は何もできないのです。お金の計算ひとつとっても、満足にできないのが現状です」

 結局、その患者さん自身が、自分がいないと業務がまったく進まないシステムを作り上げてしまったのです。現実にはこの患者さんは会社にとってかけがえのない存在になっていますが、患者さんにとっても従業員の方にとっても、これが望ましい姿だとは思えません。この例では、かけがえのない存在になるということが自己陶酔につながっているように見えてしまいます。