夢への一歩

 ドラムを演奏する方法を見つけるのには、7週間しかかかりませんでした。

 僕は、親指のついている左手を使い始めました。再建した親指と左手の残りの部分でドラムスティックを握るには何の問題もありませんでしたが、ドラムをたたくとすぐに、スティックが手から転げ落ちてしまいました。

 そんな状態が最初は何度も続きました。1、2回たたくだけで、スティックは床の上に転がり落ちてしまうのです。

「大丈夫だ、これは問題じゃない」そう僕は、自分に言い聞かせました。

 スティックを握って、1回でもきちんと打てれば、あとは練習だけだ。やがて、きたえられて、2回ちゃんと打てるだけの筋力が親指にもつくだろう。

 2回できるようになれば、続けて2000回たたけるようになるのも時間の問題だ!

 僕にとって大問題は、右手をどう使うかでした。どれだけ練習しようが、右手にはそもそもきたえるべき筋肉がないのです。さらには親指もない状態で、ドラムスティックを巧みに操るのは不可能でした。

 でも、何とかしなければなりません。プロとして演奏するには、2本のドラムスティックを使うことが必要です。

 ドラムスティックを右手に縛りつける策として最初に試みたのは、ボウリング用の革の手袋でした。手袋は僕の手首にピッタリはまり、その革は、僕がドラムをたたくと、スティックが腕に押しつけられるほど硬いものでした。

 しかし、スティックのほとんどが手袋の中に入ってしまい、外に出た部分は固定されすぎてしまうのです。ドラムを打とうとしても、スティックはまさに鉄パイプのように、びくとも動きません。良い音を出すには、スティックが手の中で自由に動かなければならないのです。

 次に思いついたのは、強力接着剤でスティックを手首にくっつけることでしたが、これは大失敗でした。ドラムを打った時、接着部分から傷跡の瘢痕(はん こん)組織と皮膚が大量にはげ落ちてしまったのです。

 他にも、強力なダクトテープ、ひも、ロープや電気コードなど、いろいろと試してみました。

 そうして3週間ほど思考錯誤を繰り返したある日のこと、父からテニスのリストバンドを試してみてはどうかと言われたのです。

 僕は、そのリストバンドの上から数本の輪ゴムもつけてみました。
ドラムスティックをリストバンドの下に滑り込ませ、右手を振り上げて、全力をこめ、腕をドラムへと振り落としたのです。

 その美しい音は、今でも忘れられません。

 僕は、繰り返し、何度もドラムをたたきました。

 タン! タン! タン!

 僕はようやく音楽を演奏し、プロのドラマーになる僕なりの方法を見出したのです。