軽油価格の高騰にあえぐ運送業界で、「ヤミ軽油」が流行の兆しを見せている。軽油に灯油もしくはA重油等を混ぜて製造するヤミ軽油には、ガソリンスタンドを含む小売り業者のみならず暴力団関係者も関与しており、トラックを使う運送業者自らが製造に乗り出す例も少なくない。各都道府県の税務当局は摘発に必死だが、焼け石に水。当面、「下火」とはなりそうもない。

 2007年4月、千葉県白井市で千葉県警が「ヤミ軽油工場」を摘発した。逮捕されたのは、石川県の石油販売会社社長と、ヤミ軽油の販売を仲介していた東京都の運送会社社長。ヤミ軽油を1万キロリットルも販売し、軽油引取税3億3000万円を脱税していた。

 ヤミ軽油とは、軽油に灯油もしくはA重油等を混ぜたもの。灯油やA重油は軽油より安価で、しかも軽油引取税(1リットル当たり32円10銭)がかからない。多少エンジンは傷むにせよ、灯油やA重油を混ぜたヤミ軽油でもディーゼル車は走るから、運送会社にとってはありがたい代物だ。

 地方・業者によって異なるが、現在の相場は1リットル当たり80~100円。ガソリンスタンド店頭価格(約130円)に比べればそうとうに安い。そのため、各都道府県の税務当局が音を上げるくらい、跳梁跋扈している。

 入手はじつに簡単。タンクローリーにヤミ軽油を詰めた業者が、運送会社に直接売りに来る。ガソリンスタンドがヤミ軽油販売に関与していることも多く、運送会社間でそうした情報が口コミで広がることもある。

 千葉県警に摘発された業者とは別のヤミ軽油業者は、タンクローリー20台を保有し、首都圏で大々的に販売。経営者は儲けたカネで、都内に大御殿を建設した。

 この業者は、産廃業者による不法投棄がきっかけとなって、警察に足跡を追われ御用となった。それというのも、灯油とA重油には、軽油には含まれていないクマリンなる物質が含まれている。詳細は後述するが、各都道府県は走行中のトラックに対する抜き打ち検査を強化中。クマリンを検出する試薬を使えば、ものの5分で不正を見抜くことができる。

 そこで、ヤミ軽油業者は、濃硫酸を使って、あらかじめクマリンを除去する。このときに硫酸ピッチと呼ばれる劇物が大量に出るため、産廃業者に処理を依頼するヤミ軽油業者が少なくない。というわけで先述した業者も捕まってしまったのだ。