事故からほど経て、政府は事の重大性を知らされたのでしょう。とはいっても、すでに今回の放射線事故に関して「絶対安全、安心」を唱えてしまった以上、そのメッセージを撤回することは政府の威信にかかわる問題と考えますから、嘘をつき続けるはめになったのでしょう。

 とくに、政治家の背後で仕事をする霞が関官僚は、「自分たちがいったことが間違っていた」と認めるのは何事にも増して屈辱と考えるので、さまざまな屁理屈をこねて、自らの正当性を主張するのです。果たして、それが国民のためになっているかどうかという議論は、彼らにとって問題ではないのです。

「放射線は安全」という説は
本当に正しいのか

 それでは、政府がいうところの「安心・安全」発言に基づいて、放射線の健康被害はまったくないと考えてよいのでしょうか。

 これは、正しくないと思います。

 放射線は、人間の遺伝子であるDNAを傷つけます。傷ついたDNAは修復能力を持っていますから、ある程度は回復します。しかし、すべてが元通りになるかといえば、そんなことはありません。

 ある程度までのダメージは可逆的に治りますが、それを超えると無理なこともあります。どこまでが許容範囲かは、その遺伝子の強さ、放射線の量、種類、浴びた時間など、さまざまな要因によって決まります。

 しかし、多少の強さの程度はあれ、DNAは放射線に弱いのです。皆さんが歯医者へいって、歯のレントゲン写真を撮ってもらうときに、重いガウンを前後ろに着たことがあるでしょう。なぜあんなにガウンが重いのかといえば、鉛が入っているからです。鉛は放射線を遮断します。そして、そのガウンを着るのは、どうしても放射線被ばくをしなければならない部分以外の被ばくを避けるためです。

 人体は、無数のDNAからできています。皆さんの体を最も細かくするとしたら、DNAの集まりになります。もし、政府のいうとおり、放射線が「絶対安全」であるとしたら、歯医者さんで写真を撮るとき、こんな重いガウンで体を守る必要はありませんよね。

 そのほか、病院などで働く人たちは、放射線をどれだけ浴びたかを調べるためのバッジをつけていることがあります。これは、ある程度以上の放射線量を浴びると、体にとって有害な反応が出やすくなるから、あまり高い線量の放射線を浴びないようにするための見張りです。