成田から東京に帰ったその足で、森嶋はお茶の水に向かった。
研究所はお茶の水の大学の一角にある。
高脇は2日前に会った時と同じ茶色のセーターにコールテンのズボン姿だった。違うのはスニーカーがサンダルに変わっただけだ。
あの夜の思いつめた表情は消えていたが、相変わらずの暗い表情をしている。
森嶋が国交省に入ってから、何度目かに会ったとき、「そういう恰好をしているから、言葉に真実味がないんだ」と言ったことがある。
「言葉の中身は服装で決まるのか」「スーツとネクタイが言葉に重さを与えるんだ」といったやり取りをしたことがある。
「先日の件だが、詳しく話を聞かせてくれないか」
「話した通りだ。ここ5年以内に、東京直下型の巨大地震が起こる確率は90パーセント以上だ」
「と言うことは、100パーセント近いじゃないか」
「そう。いま現在、起こっても不思議じゃない。それに対して政府はどれだけ準備ができているかと言うことだ」
これが事実なら、地震より先に、日本は経済で潰れてしまう、という言葉を呑み込んだ。これは、あながち夢物語でもない。アメリカ政府までも危惧しているのだ。
「東京を襲う地震はマグニチュード8以上だ」
「東日本大震災より小さいな」
「エネルギー規模は小さいが、東京、横浜、千葉にかけて、震度7クラスの揺れが襲う。今まで体験したことのない強い揺れだ」
「俺は地震については素人だが、どれだけの被害が出る。すでに高層ビルは耐震設計で建てられている。高速道路も鉄道、地下鉄を含めた交通機関も、対策はとられている」
「それでもかなりの被害は出る。内閣府の中央防災会議で被害算定はされているだろう」
「どれだけ当てになるか、作った本人も疑問に思っている程度のものだ」