もっとも、宿泊特化(素泊まり)で宿泊料を抑えて客室稼働率を高めるというアプローチは、かねてからビジネスホテルが実践してきたこと。何も目新しいことではないはずだ。

 この疑問に、「月刊ホテル旅館」の武田真理子編集長は次のように答える。

「ハード面は客室だけに特化し、ソフト面も少人数でこなしてコストを切り詰めているとはいえ、宿泊以外に何もサービスを提供しないというスタンスではありません。利用者が必要としているサービスだけに的を絞って、的確に対応しています。

 たとえば、ビジネスパーソン向けにはIT環境を整えることはもちろん、ITコンシェルジュを常駐させたり、デスクを大きめにして照明の照度もアップさせたりと、部屋で仕事をしやすい配慮がなされています。

 最近は女性客もビジネスユースで利用するケースが増えていることから、アクセサリーなどの小物を置けるトレーを置き、リラクゼーショングッズを備えるケースも出てきています」

 さらに、ベッドや枕にも気を配って安眠を提供したり、シャワーヘッドも数種類のタイプを用意したりと、ターゲットとする利用客のニーズに応じたサービスに重点を置いているようだ。

ターゲットや利用目的が広がり
細分化が進む

 武田編集長によれば、宿泊特化型のホテルが全国的に急増するようになったのは、2000年代の初め頃だという。当時の国内景気は非常に冷え込んでおり、企業が出張費のカットを余儀なくされたことも少なからず影響しているかもしれない。そして、近年はシティホテルを展開している大手ホテルチェーンも、別ブランドで宿泊特化型市場に相次ぎ参入している。

「インターネットの普及も〝宿泊特化型〟にとっては追い風となったでしょう。ホテル側にとっては宿泊予約のコストダウンが図られますし、利用する側にとっても、値段や設備などの比較検討が容易。もはや、利用客の7割程度がネットを通じて予約を入れている時代となっています」(中村氏)

 武田編集長は〝宿泊特化型〟の今後をこう展望する。

「市場が成熟しきってしまうと、おのずと限られたパイの奪い合い(消耗戦)が繰り広げられるようになります。しかし、このカテゴリーはまだまだポテンシャルが高く、さらに市場が拡大しそうです。

 ビジネスホテル時代は顧客層を一つのイメージ(男性ビジネスパーソン)で捉えていましたが、今後はターゲットや立地、利用目的などに応じて異なる戦略が打たれ、このカテゴリーの中でも細分化が進んでいくのではないでしょうか」

ビジネスホテルから
宿泊特化ホテルへ

 現在でも、多くのビジネスホテルがゆったりと眠れる大型ベッドや広めの客室、天然温泉の大浴場といった設備、あるいは朝食が充実しているなど、価格やロケーション以外にさまざまな特徴を打ち出している。そしてビジネスユースに限らず、女性同士、家族でのレジャーユースも増えているという。もはや〝ビジネス〟ホテルではなく、宿泊特化、宿泊主体ホテルといわなければなるまい。

 出張の際の宿泊先ホテルは、価格やロケーションだけでなく、宿泊環境に何を求めるかというプラスアルファの〝サービス〟で選べる時代になってきている。