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気はやさしくて胃痛持ち
【第8回】 2012年3月21日
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市川純子 [(財)日本ヘルスケアニュートリケア研究所]

毎年2割増の売上目標
高級外車セールスマンの過酷な競争

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輸入車の販売会社に応募

 Lさんに転機が訪れたのは、憧れの海外高級車の営業マンの人材募集の広告を見たときだ。そのメーカーは子どものときから憧れだった。いつも売っている国産のファミリーカーと違い、その海外ブランドは、スポーツカーがメイン。そこのメーカーはたとえセダンであってもとてつもないパワーのあるエンジンを積んでいた。

 「日本の道路ではそこまで必要ないだろう」と思えるスピードで安定的に走ることができる。危険から早く回避できるので、加速は安全につながる。またそこのブレーキは世界一性能がいい。早く走れること以上に早く止まれることが良い車の条件だ。

 ハンドルのキレも素晴らしい。自分も出世したら、いつかはその車に乗ってみたいと思っていたLさんは、新車がでるたびに秘かに試乗会に行きパンフレットをもらい試乗し研究していた。

 公休日に履歴書を書いて送ってみた。面接に呼ばれ、いかにこの車が魅力的なのか、なぜ乗りたいのかを熱く語った。一次面接後内定が出て採用された。

数字の上がらない同僚はいつの間にか…

 Lさんは、大好きな車に囲まれて幸せだったが、会社が課す売上目標数字の高さに驚いた。昨年の販売目標を毎年2割上乗せした売上目標が課せられるのだ。しかしLさんは持ち前の明るさで毎年乗り切った。

 新車の試乗会ともなるとフリーのお客さんも大勢くる。入り口で待っていて、ここぞというときにお客さんに声をかける。Lさんはフリーのお客様を自分の顧客にするのが得意だ。Lさんの給料では、自分の会社の車でも手に届かない高級車ばかりだ。でも自分で家族を乗せて走ったらどんなに楽しいだろうと常に想像しているので、その気持ちを素直に表す。

 「例えば真鶴道路だったらこのギアを選びます」。「日光いろは坂ならエンブレ(エンジンブレーキ)をこのくらい使います」。走る楽しさ、ドライブの醍醐味を語るとその場で買ってくれるお客さんも多く、自分の思いが理解されたとわくわくできた。

 でも悲しいのは同僚がいなくなる時だ。売り上げの数字のいかない営業マンは、まずは系列の中古車販売会社に配置転換が命じられる。転勤先で数字がいかないと、いつの間にかいなくなってしまう。自分の一番仲の良かった同僚が辞めたときはきつかった。

 会社がつまらなくなった。「結果がすべての営業の世界」。そんな上司の言葉を聞きながら、いなくなった同僚のことを考える。自分もいつまで目標がクリアできるのかと思うと胃が痛くなるLさんだった。

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市川純子 [(財)日本ヘルスケアニュートリケア研究所]

1961年生まれ。財団法人日本ヘルスケアニュートリケア研究所 所長。広告代理店で大手私鉄の広報を担当。その後PR会社に転職し、医薬品や化粧品分野に携わる。2003 年にJ&Tプランニングを設立。代表取締役に就任。研究や情報の開発も行いヒット商品を数多く手がける。医療健康美容分野の研究のために2010年財団を設立。


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失われた20年と呼ばれる日本経済。そんな長い停滞のなかをがむしゃらに、ひたむきに日々の仕事・生活を生きてきたビジネスマンたち。さまざまなストレスに耐えてきたカラダもそろそろ注意信号を出す頃。いろんな職場のいろんなビジネスマンのいろんな悩みと不調を少し悲しく少しおかしく紹介します。

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