法律に矛盾した判決が出た!

 ところがモルガン・スタンレーはこの仕組みをつくらず、固定給として約183万円を支払う契約になっていました。

 本来、賃金は労働に対する対価として支払われるものです。しかしホワイトカラーの職種では、給料が高額になるほどその意味合いが薄れ、成果に対する報酬という意味合いが強くなります。

 モルガン・スタンレーも毎月183万円、賞与を入れると年に約3000万円もの賃金を支払っていますから、会社が期待する成果を上げるために労働者が時間外労働をするのは当然だと考えていたのでしょう。まさか残業代を請求されるとは思いもよらず、まったくリスクヘッジをしていなかったのです。

 しかし裁判官は、固定給である183万円のなかに残業手当も当然含まれていると判断しました。労働者が自らの権利を濫用して制度を悪用していると考えたのでしょう。これだけの給料をもらっているのだから、残業代も入っているに決まっているだろうという理屈をつけ、会社を勝たせてしまったのです。

 形式的に考えれば、これは労働基準法や判例などの労働法のルールに反する判決です。会社にとってはありがたい判決ですが、裁判所が独自の判断で、高額所得の労働者に労働法を適用せず、残業代を請求する権利を認めなかったことには驚きました。

 やはり現行の労働法をすべての労働者に適用するのは、無理があるのでしょう。だからこそ裁判所も法律に矛盾した判決を下さざるを得ないのです。裁判所も現在の労働時間規制が現状に合わない、おかしいものであることは理解していると推測できます。