中小企業の管理監督者は都市伝説

 先ほど述べたように、管理監督者に残業代を支払う必要はありません。しかし、中小企業の管理監督者は都市伝説と同じで、実在するかどうかは怪しいところです。執行役員などの肩書きを持っている場合は別ですが、一般社員でありながら管理監督者であるという人を見つけるのは難しいでしょう。とくに従業員数30人未満ほどの企業では、管理監督者に相当する一般社員はいないはずです。管理監督者に該当するような地位の方は取締役になっています。

 管理監督者と判断されるためには、出退勤を管理されない、採用などの労務管理の権限を持つ、経営会議に参加するなどして経営に参画する、管理監督者としてふさわしい待遇を受けるといった、非常に厳しい条件をクリアしなくてはならないからです。

 そもそも小規模の同族企業はオーナー一族以外の社員を経営会議に参加させることは少ないですし、採用に関しても、自ら採用面接をする人はたくさんいますが、自分が採りたい人を採る権限があるといえる人はなかなかいないはずです。経営者に自分の意見を伝えて、それをもとに経営者が採用を決定するのでは、採用の権限があるとは認められません。管理監督者の条件を満たすのは本当に難しいのです。

 そして管理監督者として認められなければ、労働基準法が適用され、残業代を請求することが可能です。管理職に残業代を請求されないうちに、対策を講じるべきです。

管理監督者は大企業にもなかなかいない

 管理監督者がなかなかいないのは、大企業でも例外ではありません。マクドナルドの店長が残業代を請求して勝訴した事件がまさによい例です。

 以前、マクドナルドの店長が自分は管理監督者ではないと主張し、残業代を請求したことがありました。
  その店長の年収は約700万円だったので、賃金が低すぎるとはいえません。アルバイトを雇う権限、予算計画の決定権もあったので、権限もかなり持っていたといえるでしょう。この点だけを見れば、管理監督者として認められるように思えます。
  しかしその店長は、アルバイトがいない時間に自らハンバーガーを作っていました。これが決定打となり、店長の「自分は管理監督者ではない」という主張が認められたのです。裁判所はマクドナルドに、その店長に残業代として約503万円を支払うように命じました。

 裁判官としては、プレーヤーとして生産ラインに立っている人を管理監督者として認めることはできなかったのでしょう。管理監督者とは名ばかりで結局他の社員に混じって仕事をしているのでは、管理監督者とはいえません。仕事の内容も、管理監督者とそうではない方を分ける大きなポイントとなります。