マネジャーにとって、人事に関する決定はいつも難しいものになる。では、その決定をアルゴリズムによって下せるとしたらどうか。個人的な感情を排して、より客観的な評価を下せるようになるのか。それとも、マネジャーに必要な資質を見落とすことになるのか(本記事では、HBRのケーススタディをご紹介します。ご一読いただき、最終行の「問題」を議論いただければ幸いです)。


 アリーヤ・ジョーンズは、送別会で乾杯をしている間、上の空だった。長年一緒に仕事をしてきたアン・バンクを見送るのは寂しかったが、彼女の後継者に誰を選ぶべきかで頭がいっぱいだったのだ。

 アリーヤは、グローバルな消費財企業のベッカー=バーンバウム・インターナショナル(BBI)の営業マーケティング担当バイス・プレジデントだ。担当部門の34製品から成るポートフォリオをサポートしてくれる、優秀なマーケティング・ディレクター1名を必要としていた。

 人事部と協力して、候補者リストは最終的に2人に絞り込まれた。2人とも生え抜きの社員だ。1人はクリーニング部門のモリー・アシュワースで、アリーヤが率いるチームのブランド・マネジャーだ。もう1人はエド・ユウで、BBIビューティ部門の希望の星である。

 モリーはアリーヤの秘蔵っ子で、アリーヤはモリーの仕事ぶりを高く評価している。2年前、モリーはBBIのクリーニング製品を対象とした定期購買サービスの立ち上げを陣頭指揮した。

 この新規サービスは、最初こそもたついたものの、直近の2四半期は力強い伸びを示していた。顧客は、その利便性にほれ込んでいるようだった。また、このサービスを通じて新しい製品やサービスを試行できるとあって、研究開発チームやマーケティング部門、それに経営陣も注目している。

 サービスの売り込みと立ち上げの期間を通して、アリーヤはモリーのメンターを務めた経緯もあり、目をかけてきた後輩の長所と短所を熟知している。モリーには、次のチャレンジの準備ができていると確信していた。

 だが、ポジション募集が告知されるとほどなく、人事担当バイス・プレジデントのクリスティーン・ジェンキンズが、アリーヤのところにエドの履歴書を手にやって来た。モリーと同様、エドもビジネス・スクールを出てBBIに入社し、すぐに有望株と目された。

 彼にもサクセス・ストーリーがあった。ビューティ・グループのブランド・マネジャーとして、発売から20年経つメイク落とし製品のフレッシュフェイス(FreshFace)ラインをよみがえらせ、販売高を3年間で60%増加させたのだ。

 しかし、クリスティーンにとっておそらくより重要なのは、人事部が最近導入したピープルアナリティクス・システムにおいて、エドの当該ポジションとのマッチング率が96%であると推薦している点だ。クリスティーンは同システムの熱心な推進派だったのだ(同システムが算出したアルゴリズムによれば、モリーのマッチング率は83%だった)。人事部の計画では、採用や昇進、そして報酬に関する決定に際して、データアナリティクスを利用するのがシステム導入の目標なのだ。エドが有力視された理由は、輝かしい実績に加え、ニューヨークからBBIのロンドン本社への異動に関心を示していたからでもあった。

 アリーヤは、生え抜き社員2人が最終候補になったことを嬉しく思った。彼女自身もBBIで平社員から昇進してきたのだ。だからこそいっそう、本件の決定は困難だった。

 最高執行責任者(COO)が送別会でアンにはなむけの言葉を贈っている間、アリーヤはエドとモリーとの面接を思い出していた。