森嶋はパソコンを立ち上げた。しばらく考えてから、キーボードに指をおいた。

 国交省のサイトに入り、資料を探していく。

 過去の資料は山ほどある。しかも、ここに保存されているのはデジタルデータに切り替わったときからだ。それ以前のペーパーは他の場所に保存されている。

 昼休みもパソコンを睨み続け、キーボードの上に指を走らせた。

 終業時間が来て、森嶋はパソコンを閉じた。

 部屋中の視線を無視して部屋を出た。

 国交省のビルを出て地下鉄に向かって歩き始めたところで、黒のセダンが寄ってきて止まった。

 同時に前と後ろのドアが開き、黒いスーツの男たちが出てきて、森嶋を取り囲むと車に押し込もうとする。

 思わず足を踏ん張ると腹に強い衝撃を感じ、そのまま車中に押し込まれた。

 その間ほんの数秒で、周囲を歩いている人は何の違和感も抱かなかっただろう。彼らはこういう行為のプロなのだ。

「おとなしくしていれば、危害は加えない」

 後部座席に座っていた男が言った。英語だった。

 黒っぽいスーツのがっちりした白人だ。立ち上がるとおそらく、森嶋より頭一つでかいだろう。他の男たちは無言だった。

 車は10分ばかり走って、ホテルの地下駐車場に滑り込んだ。

 両側を挟まれるように車から出され、エレベーターに乗った。

 乗り込むと、男の1人が最上階のボタンを押した。ロビー階でドアが開き中年の男女が乗り込もうとしたが、男たちを見て慌てて隣のエレベーターに行った。