わが国の教育を巡る問題と、その問題解決に対するNPOと企業の取り組みについて第62回でも取り上げたが、この時にご紹介したNPO法人NEWVERYの理事長・山本繁氏が最近、ツイッターでこんなことをつぶやいた。

「大学に100人入学したら12人が中退し、13人が留年し、残る75人のうち就職できるのは45人で、3年続くのは31人。いわゆるストレーターは31%。これが日本の平均。偏差値30~40台の大学はもっとひどい。ということを知っていたら、400万円のローンはとても組めない」

 このつぶやきが大反響を呼び、たった2日で2000回以上もリツイートされた。

 詳しく分析したわけではないが、このツイートに激しく反応したのは大学生を中心とした若者ではないかと思う。山本氏はただ事実を語っているに過ぎない。にもかかわらず(おそらく)多くの若者が衝撃を受けたのだ。つまり、大学生などの若者、そして日本の社会がこういった事実もまったく理解していなかったということだ。

 大学生に対してキャリア教育を行なっているキャリア・コンサルタントの本田勝裕氏からはこんな話を聞いたことがある。「最近の大学生は安定志向が非常に強いが、シャッター通りにある信金に就職することが、本気で安定だと思っている」という。筆者には衝撃的な話だった。

「生きる力」が失われた日本の教育
有権者がこの国の教育をダメにした?

 この2つのエピソードが表しているのは、今の大学生の就職問題ではない。日本の教育の問題である。かつて文科省は「生きる力」を教育の大きなテーマとして掲げていたが、今の日本の子どもたちや大学生には「生きる力」がまったく育まれていない。世の中がどの方向に向かっていて、自分がこの先何十年も生きていくためにはどのような認識とスキルが必要なのかがまったく分かっていない。そういった意味での「教育の問題」なのである。

 なぜ、こんなことになってしまったのか。この記事でその理由を詳しく語る余裕はないが、教育現場の教師はこのような状況を理解していて大きな危機感を抱いているが、それが教育行政に活かされていないことも大きな理由だろう。なぜ、現場の声が教育行政に活かされないかというと、政治家が教育に真剣に取り組まないからだ。

 どこの国の政治家も教育を語る。どんな国でも教育は国力の源泉だからだ。しかし、日本の政治家は教育を語らない。「教育は票にならない」から。つまり、有権者がこの国の教育をダメにしているのである。

 今日の教育格差を生み出した学校群制度は1967年に東京都で開始されたが、この制度の問題を完全に放置した美濃部亮吉氏を東京都民は12年間も知事に選び続けた。結果、私立の中高一貫校に入らなければ一流大学入学が困難になり、教育格差を生み出していく。最近、ようやく公立高校が巻き返しを始めているが、格差解消にまで至るかどうかはまだ分からない。

 という話はともかく、教育行政に問題が大ありなのは事実としても、行政が及ばぬところを民間の力でなんとかしようというのが社会貢献というものなので、教育問題に取り組むNPOや企業のCSRが増えている。最近では、現場の教師が学校を辞め、民間の立場で教育問題に取り組むケースも出てきた。