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連載経済小説 東京崩壊
【第8回】 2012年3月28日
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高嶋哲夫 [作家]

首都移転準備室

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第一章

7

 その日の午後、森嶋は国交省総合政策局長の矢島に呼ばれた。

 矢島についていくと、大臣室に入っていく。

 部屋に入ると森嶋は思わず背筋を伸ばした。

 ソファーには、国交省大臣の渡辺と官房長官の岡部が座っている。

 「森嶋君か。首都移転の提案書を出したのは」

 渡辺が言った。

 「一つの案として提出しました。アメリカ側が要求しているのは、言葉ではなく具体的な対策です。首都機能を護る対策は多くとられています。しかし、アメリカはそれ以上のことを要求しているのだと思います。さらに日本においても景気は長く低迷し、国民の不満は高まっています。斬新な何かを求めていると考えました」

 「それが首都移転だと言うのかね」

 重々しい口調で言った。部屋中の視線が森嶋に集まっている。

 「困難なことは分かっています。しかし世界を納得させ、国民の意識も上向きになるのではないですか」

 他に言いようがなかった。

 東北の震災の影響がまだ残っていることと、少子高齢化を筆頭に先行きの見えない不況への不安で社会の空気は重く暗い。それを打ち破るのが政治の役目だが、ここ数年明るい話題はなかった。

 「災害の危険を一掃する。一考の価値はあるかもしれませんな」

 渡辺が岡部に向き直った。

 「しかし、やはり非現実的な話でしょう。東京が首都であるから日本なのです。東京以外にどこを考えると言うのです。一応、総理には報告させていただきますが。まあムリでしょう」

 岡部はあまり気乗りはしないという言い方だ。

 「国交省には昔、『首都機能移転室』がありました。2011年に廃止になったと聞きましたが、そのときの資料はどうなっているんですか」

 森嶋が矢島に聞いた。

 矢島が森嶋を睨むように見た。知らないのだろう。誰も現実的なものとして関わってはこなかったのだ。

 「総務にでも聞いて、資料を調べてくれ」

 「このことは、しばらく伏せておいてほしい。ただし、準備だけは始めておくように」

 渡辺大臣の視線が矢島から森嶋に移った。

 2人は同時に頷いた。

 

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

この国に住み続ける限り、巨大地震は必ずくる。もし巨大地震が東京を襲ったら、首都機能は完全に麻痺し、政治と経済がストップ。その損失額は110兆円にもおよび、日本発の世界恐慌にまで至るかもしれない――。今後、日本が取るべき道は何か。その答えを探る連載経済小説。

「連載経済小説 東京崩壊」

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