「世界というとアメリカも入っています。日本が100兆円以上のダメージを受けるようなことになれば、復興のために世界に貸し付けている資金を回収し、保有する国債を売却しなければならないでしょう。そうなれば、たしかにレポートに書かれているような事態が起こらないとも限りません。もっとも大きな影響を受けるのはアメリカです」

「売るに売れなかったアメリカ国債を売りさばくいい機会ではないか。大義名分ができると言うものだ」

「現在の円高じゃ、かなり損をするんじゃないか」

「大損は仕方がない。1ドル300円を超していたときに買ったものもある。3分の1以下に減っているという計算もある」

「日本はアメリカにとって、いいカモだったわけだ」

 財務大臣が何をいまさらという顔で総理を見ている。

「災害対応ばかりではなく、東京一極集中の是正のためにもいいのかも知れませんな」

「現在、東京都の人口は1200万人、首都圏を入れると3000万人の住民がいます。一極集中の是正と言っても新都に移るのは、官僚、政治家、その家族や関係者集めても、10万人いないでしょう。おそらく残りの住民は東京に住み続けます」

「すでに地方にその機能の一部を移している大企業もあります。国も準備だけでもやったほうが賢明かと思います」

 閣僚たちの言葉を聞きながら、総理は考え込んでいる。

「いや、意外といい方法なのかも知れません。たしかに欧米の経済は綱渡り状態だ。そして、国内はこの閉塞状況です。国民はこの状況を打開する何かを求めています。数兆円の財政出動となると、この沈滞ムード一色の経済にも刺激となります。平城遷都、平安遷都も疲弊し切った社会のムードを一新するためでした」

 今まで黙っていた国交大臣が言った。多分に自分の立場を考慮した言葉だろうが、なぜか新鮮味を持って響いた。

 閣僚たちは国交大臣の言葉を噛み締めるように黙っている。

「分かりました。このまま静観を保つよりいいでしょう。首都移転準備室を再開してください」

 沈黙を破って総理は言うと、閣僚たちを見回した。