最近、ある経済団体で講演したときのことである。最後に質問があった。「安倍首相に提案したいことは何かありますか?」。

 突然の質問にちゅうちょして、「『働き方改革』は、よく考えてやり直した方がいいのでは?」とコメントした。その瞬間、今まで熱心に聴いてくださっていたエグゼクティブの皆さんの顔色が変わり、会場が静まり返った。

 日本の働き方改革とは何なのか。首相官邸の公報によれば、「一億総活躍社会実現に向け、多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するために、働く人の立場・視点で取り組む」ということのようだ。

 そもそも終身雇用が定着したのは戦後のことだ。焼け野原から日本は復興し、高度成長へと突き進んだ。需要の拡大が供給を超える時代は、安定した品質と生産が重要だ。そのためには、雇用を安定化した上で規律ある組織をつくることが合理的だったといえる。

 産業界も一番弱い企業が落伍しないようにコントロールする「護送船団方式」を採用したが、雇用制度も護送船団方式だった。皆が助け合い、一生懸命仕事をすれば、明日は今日より豊かになっているだろう、という映画「ALWAYS 三丁目の夕日」のような希望に満ちあふれていた。