駅からタクシーで30分余り、周囲には畑が広がっていた。
スマートホンの地図で見ると、住居は数えるほどしかない。
「あの家だと思います」
運転手の指す方を見ると山のふもとに昔風の農家が見える。
タクシーは農道を通り、家の前に止まった。
「電話をくれてから、ここまで来るのに30分はみておいてください」
森嶋が降りるとき、運転手が告げた。
古い門の柱に、村津の表札がかかっている。表札だけが新しく、どこか生々しい感じがした。
門を入ると、正面に母屋が見えた。
国交省を出てから何度か電話をかけてはみたが、いずれも留守番電話になっていた。訪問することはメッセージとして残しておいたが、本当に留守ならば来た意味はない。それとも、国交省からの電話には出ないのか。森嶋は後者である気がしてやって来たのだ。
「国交省の森嶋といいます。留守電に入れておきましたが、村津さんはいらっしゃいますか」
玄関先で怒鳴ってみたが返事はない。やはり留守なのかと思ったが、このまま帰るわけにもいかなかった。ここまで来るのに、すでに3時間近く要している。
諦めて家の裏に回ってみた。
冬枯れた裏庭がそのまま山へと続いている。
玄関前に戻り、どうするか思案していた。
農道に出てみても畑が続いているだけで、誰も通りかかる気配はない。何度か携帯電話を出してボタンを押しかけたが、思い直してポケットにしまった。