裏山のほうで落ち葉と枝を踏む音が聞こえる。
急いで裏庭に回ると山道から小柄な男が降りてきた。
「村津真一郎さんでしょうか」
一瞬躊躇したが聞いた。
男は森嶋を見たがそのまま歩みを止めることなく、玄関口のほうに歩いた。
カギを開けることなく引き戸を引いた。
「国交省の方でしょう。入りなさい」
森嶋に向かって言った。
家の中は外と同じ冷えた空気が溜まっている。
森嶋は広い座敷に通された。
「ちょっと寒いが慣れるとさほどでもない」
男は湯気の立つお茶の入ったコップを持って入ってきた。
「トイレを借りてもいいですか」
「廊下の端にある」
森嶋はトイレに走った。
「かなり我慢してたようだな。その辺りですればよかったのに」
ホッとした顔で戻ってきた森嶋に言った。たしかにその通りだ。辺りは冬枯れた畑が続いているだけで人影はなかった。
「村津です。森嶋君ですな。話を聞きましょうか」
村津は座り直して背筋を伸ばした。留守電は聞いているのだ。
森嶋は慌ててカバンを引き寄せ、ファイルを出した。