その時、千葉が立ち上がって声を出した。

「そもそも、なんで東京が首都になったのか、誰か知ってるやつはいるか」

 誰の声も上がらない。

「森嶋君は知ってるでしょ。なにしろ、首都移転の提案者なんだから」

 優美子は皮肉を込めて言った。

 部屋中の視線が森嶋に集まってくる。

「なんとか言いなさいよ。もう、しっかり調べてるんでしょ」

 優美子にうながされ、森嶋は話し始めた。

「江戸時代には幕府は江戸にあって、そこで政治が行われていた。しかし、都は京都にあったわけだ。天皇が住んでいたからね。明治政府になってからは首都をどこにするか合意はなかったみたいだ。明治政府がまず目指したのは国家の統一だ。戊辰戦争で政情不安が続いている東北地方の鎮定、北海道の開拓のためには、国家の中心を日本の地理的中心に置くことがより合理的だったんだ。それに日本一の城、江戸城もあり、天皇を迎えるにも都合がよかった。そのうちに、なし崩し的に政府機関が次々に東京に移されたり、新しく作られたりで、東の京、つまり東京が出来上がった」

 森嶋は数日前から読み続けていた、前の首都機能移転室がまとめた資料を思い出しながら話した。

「法律で規定されてるとか条文化されてるってことはないのか」

「俺の調べた限りはなかった」

「国会法にも国会を東京都に置くなんてのはないわよ」

 法務省の女性が言った。

「じゃ、首都ってのはいったい何なんだよ」

「定義なんてどこにもなかった。あえて言うなら、国民の合意を得た場所にあり、政治都市であるってことかな」

「前のチームが候補に挙げた場所があっただろ。たしか、東北地域の栃木、福島地域。東海地域の岐阜、愛知地域。関西地域の三重、畿央地域。この三つだったかな」

「候補の条件なんてあるのか」

「東京との距離がさほど遠くない。陸、海、空での国際的な将来性を持つ。地震、津波、火山など、自然災害が少ない。広大な平地を持つ。日本各地からの交通が便利であること。現在の東京は多くの点で最適だった」

「問題は3番目だな。最近、東京近辺で地震が頻発している」

「東北地域は問題外だな。東日本大震災の影響がまだ残ってるし、放射能の問題もある。日本人は良くても外国人が納得しないだろう。それに、中部と関西地域も不安材料が多くなった。東海、東南海、南海地震の可能性が今後ますます強くなる。愛知、三重、大阪も多大な被害を受けると政府は試算を出している」

「それに、浜岡原発があるし。まず無理だろう」

「じゃ、最適地なんてどこにもないじゃないか」

「ベストはなくてもベターはあるさ。それを俺たちが考えるんだ」

 森嶋は力強く言った。

(つづく)

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