私も、ブリヂストンで二度ほど企業理念の策定にかかわったことがあります。
 最初は、1991年のこと。当時社長だった家入昭さん直下の参謀役として、グローバル・ジャイアントだったアメリカの名門企業「ファイアストン」の買収プロジェクトをやり切った直後、家入社長に「F21企画推進プロジェクト」のグループ長に任命されました。「21世紀に向けて、どう会社を変革していくか」を議論するプロジェクトで、ファイアストンの買収を経て、アジアの企業からグローバル企業へと脱皮したブリヂストンにふさわしい体制について提言せよと命じられたのです。

 社内各部署から精鋭を集めたプロジェクト・チームで喧々諤々の議論をして、マネジメントの仕組みや製品ラインナップなど、課題はいろいろ挙がりましたが、真っ先に取り組むべき仕事は「企業理念」の確立だとの結論に至りました。なぜなら、会社の大改革を行う際に、すべての判断の軸になる「理念」がなければ、方向性を見失ってしまうおそれがあるからです。

 また、全世界の従業員が日々の仕事の根本的な価値観を共有していなければ、グローバル企業として正しく機能することなど不可能。そのためにも、企業理念を確立する必要があると考えたわけです。

 そこで、私たちは、ブリヂストン創業者が会社に込めた「思い」=「社是」である「最高の品質で社会に貢献」を中核に据えながら、世界中の従業員が共有できる行動規範として「企業理念」を定めるべく検討を開始したのです。

企業理念は飾り立ててはいけない

 ところが、その途上において、私はタイ現地法人のCEOに就任。心残りでしたが、やむを得ません。その後を「F21企画推進プロジェクト」のメンバーに託し、私は日本を離れました。

 そして、企業理念が完成したのは、それからさらに数年後。私がタイ現地法人CEOののちに、ヨーロッパ現地法人のCEOに就任したちょうどそのタイミングでした。

 プロジェクト・メンバーの苦労話を聞きながら、完成した企業理念を見ると、一生懸命につくった力作であることは一目瞭然でした。ただ、一抹の不安を覚えました。主に2つの点が気がかりだったのです。