2月末の札幌。講演のために訪れた。昼間は自分の時間がまったくなかったので、夜、すべてのスケジュールを消化した後、ホテルを出て、雪の夜道を滑りながら、足任せに町をうろうろしていた。地方に行くと、できるだけその地方に対する皮膚感覚を保つために、どんなに遅くても私はその町を散策する。

すすきのの夜を楽しむ外国人観光客

 2月末とはいえ、北海道はまだ冬そのものだ。到着した夜には、駅前に対するチェックを済ませた。それで、2日目の夜には、迷わずにすすきのを目指した。すでに午後9時を過ぎていた。しかし、町を歩く人の姿が多かった。欧米系と思われる数人が街灯の下で観光地図を懸命に研究していた。

 彼らの横を通り過ぎると、今度は台湾特有のイントネーションで中国語を喋る女性の一団と遭遇。台湾からの観光客らしい。信号を待ちながら、曲がったほうがいいのか、そのまま直行したほうが正しいのかと、にぎやかに議論していた。横のほうからまたもうひとつにぎやかなグループが近づいていた。今度は韓国人の観光客と思わせる一行だ。男もいるが、女性が大半だ。

 そこで信号が緑になり、みんなは、方向が正しいかどうかといったことをそれ以上考えず、なんとなく前の人に従って一緒に移動することになった。そこから湧いてきた自信らしいものが、みんなの表情に出ている。「みんな、同じにぎやかなところを探しているのだろう」。そういう言葉がみんなの顔に書いてあるような気がする。

 そのとき、観光客にはやはり夜の商店街が必要だということを改めて認識した。日本の地方に行くと、夜はとりわけさびしい。お酒が飲めない私には、行く場所がない。営業している喫茶店はない。ファーストフードの店やコンビニエンスストアすらなかなか見つからないところもある。こうした地方でも海外からの観光客を懸命に誘致している。しかし、昼間の日程を消化した観光客たちからは、日本の夜が長くて退屈だという不満を聞かされている。