「総理が言ったことと同じです。もし、東京に深刻な事態が起こると、世界のヘッジファンド、投機マネーが動き出す。日本の経済破綻が懸念され、その影響は急速に世界に波及していく。世界恐慌の始まりです」
「その深刻度のとらえ方が違うと言うのか。アメリカのほうが日本経済を気にかけていると」
「そうです」
村津は考え込んでいる。
「首都を移転すれば、それが避けられると思うか」
「戦後、日本は二つの大きな震災に見舞われましたが、なんとか復興を遂げることができました。なぜだと思いますか」
「東京に被害が及ばなかったからと言いたいのか」
「首都移転が実現されれば、実際に東京直下型の地震が起きても、政府は冷静な対応ができます。最小限の被害に抑え、復旧復興の計画も立てることができる。それ以前に、世界に安心を与えます」
「むしろ、安心を買うためか」
「安心は高くつくものです」
「それだけか」
村津は森嶋を見つめている。
「もう一つのレポートの信頼性です。おそらく今後、日本経済とその脆弱性について精力的に研究が続けられるでしょう。そして、東京直下型地震が近いことが事実となれば、パニックが起きる恐れがあります。人の心なんて、そういうものです。そうなると――」
「ヘッジファンドに付け込まれないためにも、日本には東京以外に東京に代わる政治都市の建設が必要となる」
言い淀んだ森嶋の代わりに村津が言った。
その通りだ。パニックが起こる前になんとか発表にこぎつけなければ、アメリカのシンクタンが予想した通り、日本発の世界大恐慌が起こる可能性がある。
「すべての情報をグループ内のものに伝えるべきです。現在の彼らの意識は高いとは言えません」
「自分自身で理解していくべきではないかね」
「それでは遅すぎます。それに――」