消費税率を引き上げると、医療機関の経営が打撃を受けるというパラドックスが生じる。それは、現行の消費税制において、医療機関に仕入税額控除が認められていないためだ。これを防ぐには医療サービスを課税取引とし、医療機関に仕入税額控除を認めることである。

消費税率引き上げのパラドックス

 前回まで年金、医療の順に社会保障制度を扱ってきた。今回から社会保障制度との関連を意識しつつ税制に視点を移そう。

 まず消費税である。野田政権が推し進める社会保障・税一体改革は、社会保障制度を維持・充実するための消費税率引き上げを標榜しているが、実は、消費税率を引き上げると、医療機関経営が深刻な打撃を受けるというパラドックスが生じる。これは、極めて重要な問題でありながら、今回の社会保障・税一体改革では、ほとんど議論もされないまま、先送りとなっている。

仕入税額控除の理解が鍵

 このパラドックスを理解する鍵は、消費税制とりわけ仕入税額控除という仕組みを押さえることにある。説明を簡素化するため、原材料製造業者、完成品製造業者、小売業者、消費者の4者による財・サービスの生産・流通・小売経路を想定する(次ページ図表1)。財・サービスは全て消費税の課税取引であるとしよう。金額は例示である。

 まず、原材料製造業者は、2万円の原材料を製造し、これを完成品製造業者に2万円プラス消費税1000円(=2万円×5%)で販売する(この原材料製造業者は、他の業者から全く仕入れをすることなく原材料を製造したと仮定しておこう)。原材料製造業者は、完成品製造業者から受け取った消費税1000円を税務署に納税する。