ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
連載経済小説 東京崩壊
【第14回】 2012年4月11日
著者・コラム紹介バックナンバー
高嶋哲夫 [作家]

経済戦争

1
nextpage

第1章

13

 迷った末、昼休みに新橋のコーヒーショップで植田と待ち合わせした。

 植田は時間通りにやってきたが、議員バッジを外している。バッジなしの植田は、近くに本社のある大手企業の若手サラリーマンにしか見えない。

 今日は予算委員会をやっているはずだ。委員会を抜け出してまで森嶋に会うということは、何かをつかんでいるのか。

 「インターナショナル・リンクのことですね」

 植田は椅子に座るなり言った。

 「2段階一挙降格については、知っていますか」

 「今朝知りました。ひょっとして出所は森嶋さんですか。日本でのということですが」

 「あなたは?」

 「私にだってルートはあります。これでも国会議員ですから。今回はある新聞記者です。情報はすでに政府にいっているらしい」

 そういって笑みを浮かべた。ある新聞記者とは理沙だろう。

 「政府はその記者の言葉を信じたわけですね。ニュースソースを確かめたんですか」

 「アメリカ政府高官からの情報ということだったと思います。名前までは分かりませんが」

 「その記者は――」

 「総理との独占インタビューをやりました。党の有力者とパイプがあるようです。明日の朝刊に載るはずです」

 森嶋はかすかな溜息をついた。これがギブ・アンド・テイクということなのか。

 「なにかおかしいですか」

 植田が不思議そうな顔で森嶋を見ている。植田の彼女は過度の見返りを求めようなんて思ってもいないという言葉を思い出し、思わず笑みが漏れたのだ。

 「官邸では直ちに会見の準備を始めています。インターナショナル・リンクが日本と日本国債の2段階降格を発表すれば、ただちに総理が会見を開き、反論を述べます。負の連鎖は極力避けなければなりませんからね」

 「総理の会見で避けられますか」

 「タイミングと会見内容で影響を最小限に減らそうということでしょう。それはそれで評価できます」

 しかし対応を誤れば、日本経済に大きなダメージを与えることは間違いない。これが引き金になって坂道を転がり落ちることにもなりかねない。

 「政治家の皆さんは、首都移転の問題にどれだけ真剣に取り組んでいるのですか」

 植田は唐突な森嶋の言葉に驚きを隠せないようだった。

 「正直、まだ実感がわかないようです。しかし、高脇さんの話が現実のものとなる前に、考えざるを得ないでしょう。一部の国会議員は真剣に議論すべきだと思っています」

 植田は森嶋から視線を外し腕時計を見た。

 この男はまだ何かを隠している。少なくとも、言ってないことがある。森嶋は大きな身体を丸めるようにしてコーヒーカップを口元に持っていく植田を見ながら思った。

 2人は店を出て、途中まで無言で歩いた。そして、霞が関と永田町へ別れた。

 

1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
まいにち小鍋

まいにち小鍋

小田真規子 著

定価(税込):本体1,100円+税   発行年月:2016年11月

<内容紹介>
簡単で安くて、ヘルシー。ポッカポカの湯気で、すぐにホッコリ幸せ。おひとりさまから共働きのご夫婦までとっても便利な、毎日食べても全然飽きない1〜2人前の小鍋レシピ集!「定番鍋」にひと手間かけた「激うま鍋」。元気回復やダイエットに効く「薬膳鍋」や、晩酌を楽しみたい方に嬉しい「おつまみ鍋」など盛り沢山!

本を購入する
著者セミナー・予定
(POSデータ調べ、11/20~11/26)


注目のトピックスPR


高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

この国に住み続ける限り、巨大地震は必ずくる。もし巨大地震が東京を襲ったら、首都機能は完全に麻痺し、政治と経済がストップ。その損失額は110兆円にもおよび、日本発の世界恐慌にまで至るかもしれない――。今後、日本が取るべき道は何か。その答えを探る連載経済小説。

「連載経済小説 東京崩壊」

⇒バックナンバー一覧