その時、ロビーの入口が騒がしくなった。

 数台の車が止まり、スーツ姿の集団が入ってくる。

 優美子がテーブル越しに森嶋に身体を近づけた。

「ユニバーサル・ファンドの連中よ。30人近くいるんじゃない」

 数人のがっちりした男たちに囲まれて先頭を歩いている銀髪の男がジョン・ハンターだ。

 男たちは談笑しながらエレベーターの方に歩いていく。

「ああして他人の国に乗り込んで、国の経済機構をガタガタにして去っていくのよ」

「それに対して、俺たちの国は何が出来るのか」

「最近、よく会うわね」

 突然の声に顔を上げると、理沙が立っている。

「あなた方もハンターを監視してるの。それとも2人でここに泊ってただけなの」

「そんなスパイもどきのことも出来ないし、経済力もありませんよ。僕たちはただの公務員です」

「キャリア官僚でしょ。いずれ、日本を背負って立つ。いえ、もう背負いつつあるんじゃないかしら」

「無力な公務員です。政治家に翻弄されている」

 森嶋は、先日の理沙の記事を見て騒いでいたチームのメンバーを思い出していた。

「そうとも言えないわよね。窮鼠、猫をかむって言うじゃない」

「我々が鼠ですか。ユニバーサル・ファンドが猫――それとも政治家」

「失礼。それほど切羽詰まってはいないということか。でも、気付いてないのは政府と国民だけということだってあるわよ」

「マスコミだけが知っているということですか。理沙さんはハンターを監視してどうするんです。また、単独インタビューですか。総理と同じように」

 理沙はわずかに肩をすくめて微笑んだ。

「それもいいわね。うちの英語版に載せることもできるし。世界にもそこそこの読者がいるのよ」

「でもハンターは、総理と同じようにはいかないでしょ。それとも理沙さん、なにか強力なコネがあるんですか」

 森嶋は理沙が自分の言葉をそのまま信じたことが気になっていた。彼女は独自に裏付けを取ったのか。アメリカ政府とも太いパイプを持っているのかもしれない。

「これからも協力しましょ。日本を食いつぶされないようにね」

 お似合いよ、あなたたち。理沙は2人に向かって片目をつぶると、森嶋の問いには答えず行ってしまった。