「いったい何歳から子どもにはスマホやタブレットを持たせてもよいのか。動画やゲームに依存してしまったり、成長面で問題が出る心配はないのか」。せがまれればためらいながら使わせてはいるものの、漠然と不安と抵抗を感じている親は多い。世界中の子どもの親が直面するこの問題に、科学的にはっきりとした指針はないものなのか。世界的サイバー心理学者として知られるメアリー・エイケン博士が、デジタル・テクノロジーが人間にどのような影響を与えるか、とりわけ子どもの成長への影響を発達段階ごとに見ながら、子育ての中での影響を科学的にまとめた話題の新刊『サイバー・エフェクト 子どもがネットに壊される――いまの科学が証明した子育てへの影響の真実』から、一部抜粋して紹介する。

12歳の殺人行為は
どうしておこったか?

 ホラーストーリーに特化したウェブサイト「クリーピーパスタ・ウィキ」のファンになったとき、米ウィスコンシン州ウォキショーのモルガン・ガイザーとアニサ・ワイヤーはまだ10歳だった。

 子どもたちはみな、超常現象や幽霊、ホラー映画の話に興味があり、友人を怖がらせるのも大好きだ。「クリーピー・パスタ(creepy pasta)」とは、子どもたちがお泊まり会やキャンプファイヤーで披露し合うような、怖いショートストーリーを指す言葉である。

 しかし、インターネットが持つ「人々に没入感を与える」という特徴によって、サイバー・キャンプファイヤーは、現実のキャンプファイヤーよりも子どもたちを怖がらせるものになる。

 クリーピーパスタ・ウィキでは、集まってくる子どもたちに、自分自身のクリーピー・パスタを書くように求める。そうしたショートストーリーの投稿と、それにコメントが寄せられることから生まれるインタラクティブ性(クリーピーパスタ・ウィキのコミュニティの活力、そして没入感をもたらす源であるとも言える)は、参加者の創造力をさらに刺激する。

 念のために言っておくと、同サイト上には、掲載されているコンテンツの大部分は13歳以上向けであるとの警告が掲げられている。しかし、13歳以上向けであると言われたものに興味が湧かない10歳の女の子など、いるだろうか?

 ガイザーとワイヤーは、クリーピーパスタ・ウィキ上で「スレンダーマン」と呼ばれる化け物と、それに関する伝説に夢中になっていた。そこにはスレンダーマンの恐ろしい「写真」や絵が投稿されており、さまざまな「目撃」情報も寄せられている。背が高く、痩せた男の姿をしたスレンダーマンは、死神のように黒いローブをまとっており、何の疑いも持っていない子どもと一緒に森に潜んでいる姿が「撮影」されることが多い。

 スレンダーマンは子どもを捕まえると、彼らを木に串刺しにして臓器を取り出し、狂気へと追いやると言われている。

 ところが実際には、この怪物はエリック・ナドセンという米フロリダ州に住む若い父親が創造したものだ。彼は2009年にオンラインフォーラム「サムシング・オウフル(何か恐ろしいもの)」で開催された、画像加工ソフトのフォトショップの腕を競うコンテストに参加し、「最高の超常現象画像」に贈られる賞を獲得しようと考えた。そして子どもの後を付け狙う、黒い服を着た、背が高く顔のない男の白黒画像を創り出したのである。

 エリックはこの男に、スレンダーマンという名を与えた。するとたちまち、このキャラクターを使った二次創作が現れ、ホラー界のヒーローの座へと上り詰めた。

 しかしガイザーとワイヤーは、その話を本当だと信じた。彼女たちは放課後や夕方、週末をホラーサイトで費やし、スレンダーマンを「目撃」したという新しい記事やコメントを読み漁った。そして2014年、2人は12歳になり、スレンダーマンの「代理人」になることを決めた。彼女らは自分たちの価値をスレンダーマンに示し、目の前に現れてもらおうと考えたのだ ― 誰かを殺すことによって。

 彼女らは数ヵ月かけて計画を立て、犠牲者となる子どもを選んだ。それはクラスメートで、彼女らを友人と考えていた12歳の少女だった。2人は彼女を「キャンプファイヤー旅行」だと言って森に連れ出し、一昼夜を過ごした後で、かくれんぼをした。「スレンダーマンの代理人」が彼女に襲いかかったのは、そのときだった。彼女は腕や足、胴などを19ヵ所刺されて放置され、死を待つばかりとなった。

 しかし、彼女は死を免れた。近くの道路まではい出て、血まみれになった黒いフリースのジャケット姿で、歩道に横たわった。そこを通りかかったサイクリストが彼女を見つけ、救急車を呼んだのである。

 逮捕されたとき、ガイザーとワイヤーは、ぞっとするような事件の詳細を自白した。それは世界的なニュースとなり、スレンダーマンに対する人々の関心を高めることとなった。ニューズウィーク誌は次のように伝えている。

「いまやスレンダーマンは、清教徒たちが信じた悪魔の複製のような存在だ。それはいつでも、どこにでもいる。テクノロジーが支配し、現実と空想の境目が急速に消えつつある世界で子育てすることの不安を、具現化したような幽霊である」。これは現実と空想を区別する力を育てる段階にある子どもにとって、本当に重要な問題である。

 12歳の少女が殺人未遂で逮捕されることなど、どのくらいあるのだろうか? 2012年、米国では8514人が殺人および非過失殺人の罪で逮捕されたが、そのうち1人だけが、13歳未満の少女だった。

 ウォキショーの警察署長ラッセル・ジャックは、この事件に関して行われた記者会見において「これはすべての親にとって、目を覚ませという合図になるだろう」と述べた。「インターネットは私たちの生活様式を変えてしまった。そこには私たちを楽しませ、教育してくれる素晴らしいサイトも数多くあるが、暗く、邪悪なものにも満ちている」。