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連載経済小説 東京崩壊
【第15回】 2012年4月13日
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高嶋哲夫 [作家]

口止め

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第1章

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 ロータリーで車を降りたときから、高脇の身体は気の毒なほど小刻みに震えていた。

 高校時代から、緊張すると身体的に過剰反応を示すところがあった。体育祭での女子学生とのフォークダンスのときもそうだった。高脇に取って、総理も女子学生と同じなのか。

 「大丈夫か」

 森嶋が小声で聞ていも、唇をかみしめ正面を睨んだまま答えようとしない。

 総理執務室には能田総理、官房長官、国交省大臣、財務大臣の四人、そして総理秘書官がいた。

 「高脇先生ですか。論文は拝読させていただきました。首都東京の抱える問題を改めて考えさせられる、きわめて重要なものと位置づけました」

 総理は青ざめ強ばった表情の高脇をいたわるように柔らかな口調で言った。

 しかしソファーに腰を下ろし、総理と対峙したとたん高脇の震えは止まった。高脇はカバンから出した分厚いファイルを膝の上に置いた。

 「新しい計算結果があります。これによると──」

 「お預かりしておきます。政府の方からまた改めて専門家を派遣して、お話を伺いたいと思っております」

 秘書官が高脇の言葉をさえぎり、ファイルを取ると総理のデスクに置いた。

 「先生に改めてお願いがあります。この論文は、しばらく発表を控えてもらうわけにはいかないでしょうか」

 高脇はえっという顔で総理を見つめている。

 「出来るだけ早く公表して国民に注意を促すことが、私たち地震を研究する科学者の使命と考えておりますが」

 「しかし、それによる国民の動揺は図り知れません。政府も突然のことなので対応処置を取りかねております。政府の準備が整うまでのしばらくの間、発表を

 控えるよう切に望みます。その見返りと言っては失礼ですが、先生にはしかるべき処遇を取らせていただきます」

 総理は高脇に向かって深々と頭を下げた。

 

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

この国に住み続ける限り、巨大地震は必ずくる。もし巨大地震が東京を襲ったら、首都機能は完全に麻痺し、政治と経済がストップ。その損失額は110兆円にもおよび、日本発の世界恐慌にまで至るかもしれない――。今後、日本が取るべき道は何か。その答えを探る連載経済小説。

「連載経済小説 東京崩壊」

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