ペンタブレット市場で圧倒的な世界シェアを誇るワコムが、新たなビジネス領域に踏み出そうとしている。4月に就任した井出信孝新社長に戦略を聞いた。

ペンタブレット世界シェア9割、ワコムの次の手は「デジタル文具」Photo by Takeshi Shigeishi

──井出社長は2013年にシャープを辞してワコムに入社しました。ワコムの強みと弱みをどう客観的に分析していますか。

 ワコムには長年、ペンの技術にフォーカスしてきた歴史があります。1983年の創業以来ペンタブレットを開発し、91年にはディズニー映画「美女と野獣」の製作に採用されました。自動車メーカーの設計者などプロのクリエーターに支持され、世界シェア9割という強みを持っています。

 ただし、これは実は弱みでもあります。プロの世界で培われた匠の技と経験値はありますが、それはいわば閉ざされた世界。この数年間でペンタブレットは一般消費者へと市場が拡大し、米グーグルや米マイクロソフト、米アップルなどITの巨人も参入し始めている。彼らと対等に渡り合い、したたかな戦略を駆使しなければ生き残れない。そうした感覚はこれまで少し弱かったように思います。

──ニッチな世界での仕事が、グローバルな戦場の真っただ中に放り込まれた感じですか。

 そうですね。市場は急速に広がっています。アップルペンシルが発売された15年ごろから、ペンが単なるアクセサリーからソリューションの重要な一部に変わり始めています。スマートフォンやタブレットはもちろん、電子署名や電子黒板など決済や教育の現場に広がりつつあります。まさに今が革命前夜という感覚です。