人は短時間でガラッと変わることはない

「たった30分で人は変われる」

 少し前であれば、こんな物言いに対して多くの人は「怪しい」と感じたものではないでしょうか。しかし、今は短い時間で変わるという主張が説得力をもつようです。

「たったひと言で人は変われる」
 「2秒であなたの犬が変わる躾」

 二つ目の例で変わるのは人間ではありませんが、短時間で犬を変えたいと考えているのは人間なので、考え方は同じです。

 たとえば催眠術のように、「今から三つ手を叩けば、あなたは生まれ変わる」とやられて生まれ変わった気になるのは、その人自身が本当の意味で変化したり成長したりすることとはまったく関係のないことです。

 現在ではほとんどやりませんが、対人恐怖を抱える人に催眠療法を施すことで、人前に出る勇気を与えるという治療がありました。これにしても、その場しのぎにすぎないもので、いずれ時がたてば元に戻るのが一般的です。

 カウンセリングや精神医療の世界では、患者さんにこう明言します。

「あなたの悩んでいる『眠れない』とか『食事が喉を通らない』など、部分的な悩みについては直すことはできますが、すべての人格を変えることはできません」

 まさに「ほどほど」にしか変えられない。ややもすると冷たい言い方に聞こえるかもしれませんが、これが事実であり、誠実に対応するにはこれ以外の言い方がないのです。

「ここへ来たらすべての悩みが解決し、すべての病気が治ります」

 こんなことを平気でいう人もいるようですが、これが真実とは思えません。患者さんに変な期待を持たせてしまうのも大きな問題でしょう。患者さんのなかには、大きく変われないと聞いて失望してしまう人もいるかもしれませんが、いい意味でも悪い意味でも、人間はガラッと変わることはないのです。