もっとも浪費が激しいのは人的資源

 日本型人事がガラパゴス化している。日本国内で独自の進化を遂げ、世界標準から遠く掛け離れてしまう現象は、「ガラパゴス化」と呼ばれている。英語では「ガラパゴサイゼーション」という表現をあまり聞かない。だから、外国人に話をしてもまったく通じず、イグアナでも見るような目つきをされて困ってしまう。よく知られたケースは携帯電話だが、人事の現場でもその現象が広がっているようだ。

 ボストン・コンサルティング・グループ日本支社代表や上智大学教授などとして、なにかと日本と縁の深いジェームズ・C・アベグレンは、フォード財団の研究員として1955年に来日し、わが国の工場の労使関係を調査して、『日本の経営』(1958年 ダイヤモンド社)を表した。そのなかで、日本型の労使関係の特徴を、(1)終身雇用、(2)年功制、(3)企業別組合の三つから切り取って見せた。いわゆる「三種の神器」というものである。本サイト訪問者の多くにとっては、生まれる前のことなのでどうもピンとこないかもしれないが、いまも日本的経営を特徴づけている(と信じられている)。

 雇用と処遇と組合の問題を扱うのがオリジナルの日本的経営だった。それが、新規学卒者の一括採用、年次によるキャリア管理、処遇に直結しない人事評価、OJT偏重の人材育成、遅い昇進と幅広い異動など、さまざまに形を変えて発展を遂げ、日本的人事制度の独自の特徴となった。日本型の人的資源管理のポリシーが、長らくの人事鎖国状態の下で進化し、見事にガラパゴス化してしまったのだ。だが、グローバル時代には、それがかえって足かせとなっている。

 天然資源や金融資源などを含めたさまざまなリソースのなかで、「もっとも浪費が激しいのは人的資源である」と警鐘を鳴らしたのは、教育評論家のケン・ロビンソン卿だ。資源の少ないわが国でも、人材は豊かだと考えられてきたので、人的資源の浪費癖には無頓着になっている。

 競争優位性の元となる人材の姿を、「無口で腕のいい職人」とか「従順で素直な職員」などとして、企業や社会が固定的にとらえてきたために、人材の積極的な活用を怠り、長らく塩漬けにしてしまう。