ソニー新社長の吉田憲一郎氏Photo by Yoko Suzuki

ソニーの歴史の中でも初めて、CFO(最高財務責任者)から社長に就任した吉田憲一郎氏。発表した中期経営計画の中では、改めてコンテンツIP(知的財産)事業を主力事業として全面に打ち出した。“ダークホース”扱いながら社長レースを制した吉田氏は、今後のソニーのかじ取りをどう行うのか。週刊ダイヤモンドなどの共同取材に応じた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)

――中期経営計画の発表の場では、創業者である盛田昭夫氏、井深大氏の言葉や行動に触れるシーンが何回もありました。最近約10年の間、ソニーの経営陣はあえて創業者から距離を取ってきたように見えますが、吉田さんがここであえて盛田さんの言葉を引いたのはなぜですか。

 あらゆる人に個性があるように、あらゆる会社に遺伝子やDNAがあり、それには力があります。今強いのは創業者的な経営者がいたり、創業者が現役で経営をやっている企業ですよね。創業者でない以上、創業者と同じことはできないんですが、会社の志は創業者にある。であればノスタルジックにではなく、ストラテジック(戦略的)に「創業の精神に戻る」ことが重要だと考えました。

 実は、創業者の考えは、エレクトロニクス事業の構造改革を行うときに一度立ち返った経験があります。ソニーは2004年から2013年までの間、テレビで8000億円の赤字を出し、“止血”をする必要に迫られていました。あの時に引き合いに出したのは「井深さんの言っていた「いたずらに規模を追わない」という言葉でした。創業者の言葉というのはそれだけパワフルで腹落ちするんですよ。

 だから4月に社長になってまず考えたのは「ソニーのDNAって何だろう」ということ。エレクトロニクス、エンターテイメント、金融事業の生い立ちは何だったのか、と。そこで行きついたのが、“人に近づく”という言葉です。