世界中でEVシフトの波が起きる中、トヨタの豊田章男社長は「『勝つか負けるか』ではなく、まさに『生きるか死ぬか』という瀬戸際の戦いが始まっている」と語った。IT企業が続々参入する自動車業界では今、何が起きているのか。グーグル、ソフトバンク、ツイッター、LINEで「日本侵略」を担ってきた戦略統括者・葉村真樹氏の新刊『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』から、内容の一部を特別公開する。落合陽一氏推薦!

トヨタ社長が「生きるか死ぬか」と呼んだ<br />100年に一度の戦いとは?

IT企業が続々参入する自動車業界

 2017年末、GMの前副会長ロバート・ラッツ氏は、米国の自動車業界向けウェブサイトAutomotive Newsに以下のコメントを寄稿した。

 数百年にわたり、人間の主な移動手段は馬だった。そしてここ120年間は自動車だった。 そして今、自動車の時代は終わりに近付いている。移動手段は標準化されたモジュールに置き換えられるだろう。最終的には、運転手が指示をする必要のない、完全に自動化されたモジュールになるだろう。

 ロバート・ラッツ氏はGMの前にはフォード、クライスラー、BMWなどで自動車開発に携わってきた人物だけに、このコメントは旧態依然とした自動車業界に大きなショックを与えた。ここで言う「完全に自動化されたモジュール」というのは、いわゆるMaaS(Mobility as a Service)と捉えることができる。

 MaaSとは、様々な交通サービスの提供機関を統合し、モバイルアプリを通じて個々のユーザーのニーズに合わせて実際の交通機関の利用プラン用のモビリティチケットを発行し、自動車だけではなく、バスや電車などの利用を、経路検索から、自動車の予約、配車手配、決済までのサービスとして提供するコンセプトである。

 既存のカーシェアやシェアサイクルもこのコンセプトに基づくものだが、自動車については究極的には自動運転車が普及の鍵となってくる。そして逆説的ではあるが、自動運転車の普及はMaaSの普及とも言える。

 自動運転車の動力源については、その電力消費量も鑑みると、バッテリーを搭載した車両である必要があるため、必然的にEVとなる。そうなると、自動運転車時代の勝者の一人は、EV競争で先んじるテスラと見ることもできる。

 一方で、自動運転車については多くの企業が研究・開発を進めている。まずは、自動車メーカー。トヨタ、日産、ホンダなどの日本メーカーはもちろん、フォルクスワーゲン、ダイムラー、アウディといったドイツ勢、フォード、GMなどの米国勢が代表格だ。

 それから米国のIT企業でも早い段階から自動運転に取り組む企業が多い。なかでもグーグル(現在は、持株会社Alphabet傘下のWaymo)は2012年に世界で初めて公道で自動運転の路上テストを行っており、自動運転技術については蓄積したデータの規模や認識・制御技術も含め、他を先行していると見られている。

 またマイクロソフトやアップルも自動運転の研究・開発を進めていると見られている。アップルについては詳細は不明だが、グーグル、マイクロソフトに共通するのは自動車そのものの製造ではなく、自動運転制御の技術を自動車メーカーに提供する方向性だ。

 また、若干毛色が異なるが、ライドシェアサービスのUberも有力な企業だ。Uberはスウェーデンのボルボと自動運転車を共同開発することに合意、2万4000台ものボルボ車両を購入して2019年から2021年にかけて自動運転車によるフリートを構築するという。