アクティビストは、さらに多くの、より大きな企業を標的にしている。本稿ではアクティビストがターゲットにするもの—そして、対象になった場合の対応法のヒントを紹介する。

 アクティビスト投資家(物言う株主)[注1]は、かつてより強気になっている。

 私たち(マッキンゼー・アンド・カンパニー)の分析によれば、2013年にアクティビストが標的にした米国の上場企業の平均時価総額は100億ドルとなり、2000年代末には20億ドルに満たなかったものが、わずかな期間で80億ドル増加した。また、その活動はさらに精力的になり、過去3年間に発動したキャンペーンは年平均240件である――10年前の2倍以上にのぼる。

 アクティビストは比較的小さな集団であり、ヘッジファンド業界の運用資産が2兆5000億ドル規模であるのに対して、アクティビスト運用下の総資産は750億ドルにすぎない。ただ、彼らはヘッジファンドより高い資産成長率を示し、伝統的な投資家層を引き寄せている。その結果、アクティビストは、今後も大企業を相手にしていくための資金と手段の両方を手にしている。

 また、株主は概して恩恵を受けている。アクティビストによって過去10年間で米企業に発動されたキャンペーン1400件のうち、400件を対象にした私たちの分析では、取得可能なデータがある大企業のうち、アクティビストのキャンペーンは標的企業の業績の下降軌道を転換させるとともに、最低36ヵ月間継続する株主への超過リターンを生み出した(図表1参照)[注2]

図表1

 国際的に見ると、他国でも同じような結論に至っている[注3]。この点は、アクティビストをめぐる世論の転換と一致している[注4]

 現在では、アクティビストのキャンペーンが――たとえば、戦略とオペレーションの改善、取締役会の強化、または短期業績に対する圧力の緩和にまで――及ぼしうる、プラス効果に対する認識の高まりを私たちは目にしている[注5]

 だが、経営幹部は多くの場合、アクティビストに対して反射的に抵抗感を示すものであり、対策を取るとしてもそれが課題になる。私たちの分析では、アクティビストはみずから敵対的、または辛辣ですらある最初の交渉によって、そうした反応を招くことが多い。

 しかし、論調や態度を別物として分けて考えられる経営幹部であれば、一部のアクティビストには価値を創出し、株主に対する実績を高めるアイデアが確かにあると気づくだろう。事実、アクティビストのイニシアチブに対して協調的、対話を通じた、あるいは妥結を探る対応は、攻撃的な対応よりも株主への高い超過リターンにつながる傾向がある(図表2参照)。

図表2

 アクティビストとの望ましい関係を構築するには、経営幹部はまず、何が彼らを引き寄せるのかを理解する必要がある。次に、アクティビストが提案しそうな価値創出への提案をみずから行うために、自社の脆弱性を診断するとよい。さらに、アクティビストとの交渉に備えて、対応計画を用意しておくべきだろう。

アクティビストを引き寄せるものは?

 アクティビストのキャンペーンそのものは、経営部門にとって、直接的な経費としても、会社運営から割かれる多大な時間と労力においても、高くつきうる。私たちの聞き取り調査では、争議に発展したキャンペーン1件につき、1000〜2000万ドル、加えて、計画の策定と投資家面談にあてた数週間分の経営陣の時間が企業のコストとなる。

 アクティビストが介入する前に、標的にされそうな弱点を特定して対処できる経営幹部は、予防的な行動、あるいはアクティビストがキャンペーンを発動した場合には妥結に向けた迅速な道筋を通じ、コストを伴わずに会社がメリットを得るようにできるだろう。

 では、そういった弱点とはどのようなものか?意外な結果ではないが、私たちの調査では、アクティビストを引き寄せるトリガーになる可能性がいちばん高い弱点は、業績不振であることがわかった。ほとんどの場合、アクティビストは業績の絶対的な低下よりも、同業他社との相対的な業績不振に焦点を当て、なかでも株主還元が過去2年で業界に大きく遅れを取った場合、収益成長率の停滞、そして同業他社との格差拡大に反応する。

 多額の現金残高や繰り返し発生する組織再編コストなども、アクティビズムが忍び寄る強力な要因となる。注目すべきなのは、経営幹部の報酬と企業の市場推定収益の乖離はアクティビストの主張によく使われる数値ではあるが、私たちの調査においてアクティビストを引き付ける重要な要因ではなさそうだとわかったことだ。会社に同業他社と比べて業績不振の兆候が表れたら、アクティビストはすでに目を光らせている可能性がかなり高い。

 経営幹部は、アクティビスト対策の予防的な監査を実施し、自社の業績を評価してもよいだろう。私たちの所見では、これを実施する企業の数は増えており、標的になる可能性を積極的に検証し、その点からオペレーションと戦略計画を再検討している。徹底した公正な予防的監査は弱点を特定し、あらゆる選択肢を評価するものであり、アクティビストを遠ざけ、価値創出の機会を見つける助けになりうる。

 ある企業は、同業他社と比較した業績トレンドを精査し、それぞれの事業区分において、価値を創出する根本的な要因を深く分析した。この情報を武器に、同社は各事業の本来の価値をよりよく理解し、各部門の総計と市場評価額とを比較することができた。最後に、同社はオペレーションの改善、資本配分および資金調達の改革、そしてポートフォリオの抜本的な変更など、その格差を縮めるために可能な選択肢すべてを検討した。

 一部のセクターでは、業界特有の投資テーマのパターンも見受けられる。たとえば、産業用機械企業は企業ポートフォリオが幅広いために、市場価値が個別の事業の総計より低くなることが格好の標的になる。その他、アクティビストにとって魅力的なターゲットとなるのは、過小評価された原料資産を抱えている素材系企業、および同業他社より薬品関連のパイプライン(研究開発または生産)が脆弱と見られている製薬企業である。