「どうすれば、一生食える人材になれるのか?」
「このまま、今の会社にいて大丈夫なのか?」
ビジネスパーソンなら一度は頭をよぎるそんな不安に、新刊『転職の思考法』で鮮やかに答えを示した北野唯我氏。
もはや、会社は守ってくれない。そんな時代に、私たちはどういう「判断軸」をもって、職業人生をつくっていくべきなのか。本連載では、そんな「一生を左右するほど大切なのに、誰にも聞けないこと」を北野氏が解説する。

「予期せぬ左遷」に怯える50代

「40代で年収が下がる人」と「上がる人」を分けるたったひとつの違い 北野唯我(きたの・ゆいが)
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画、サイトの編集長としてコラム執筆や対談、企業現場の取材を行う。TV番組のほか、日本経済新聞、プレジデントなどのビジネス誌で「職業人生の設計」の専門家としてコメントを寄せる。

「父さん、子会社に転籍することになった」

その言葉を聞いたとき、幼い私は愕然としました。誰もが知るような財閥系の大企業に勤めていた私の父は、50歳を境に子会社へ転籍の命を受けました。つまり実質的には「左遷」されたわけです。

その事実をおぼろげながら理解した私の心に、なんとも言えないモヤモヤが湧いてきたのを今でも覚えています。しかし、大人になり、冷静に振り返ると、この話はとくに珍しい話ではありません。

というのも、今の日本は、年功序列と言いながら、人口構造の問題から「実質的な左遷」が起きるのは日常茶飯事だからです。

具体的には、40代以降は給与が上がる人が徐々に減っていき、50代以降になるとその傾向はより顕著になります。「ごく限られたスーパーマン」しか給与が上がり続けることはありません。

現に、転職に関するデータでは、55歳を超えて転職すると、「給料が下がる確率」の方が「上がる確率」より、15%も高くなるとの調査もあります。

では、いったい40代でも年収が上がり続ける人と、下がる人の違いは何なのでしょうか。

あなたの市場価値は「マーケット」を見るか「上司を見るか」で決まる

結論から言えばそれは「どこを見るか」です。

具体的にはマーケットを見るか、上司を見るか、の違いです。

長い職業人生、ずっと上司だけを見てきた人は、当然40代になった時点で「社内で通用するスキル」は身につけています。

しかし、これだけ外部環境の変化がある現代。20代、30代で身につけた「社内スキル」は40代になるころには陳腐化することも多い。思い出してください。10年前はまさか「LINEや、インスタグラム、フェイスブックを広告で活用する未来」なんて夢にも思い描いていなかったはずです。

結果的に、どれだけ会社に尽くしてきたとしても陳腐化したスキルしか持っていなければ「左遷リスト」に入らざるをえない。なぜなら、経営者からすれば、「自社でしか通用しない人=どれだけ安い給与でも辞めない人」だからです。あえてドライに話をするなら、高い給与でわざわざ雇う必要はないわけです。

こうして「社内では足元を見られ、社外では通用しないサラリーマン」が大量に生み出されていきます。

一方で、マーケットを見て生きてきた人は違います。マーケットを見て生きていくことのメリットは、「転職がうまくいく」だけではありません。むしろ、マーケットを見て生きてきた人間は結果的に「社内でも高い給与」をもらえることが多い。

なぜなら、経営者としても「高い給与を払わないとすぐ辞められる」からです。当然です。

20代は「専門性」30代は「経験」40代は「人的資産」で勝負せよ

では、具体的に市場価値は何で決まるか?

それは三つあります。それが「技術資産」と「人的資産」と「業界の生産性」です。

「40代で年収が下がる人」と「上がる人」を分けるたったひとつの違い

まず第一は「技術資産」です。

これは二つの要素に分解されます。一つは「専門性」。たとえば、エンジニアリング、マーケティング、セールスなどです。もう一つは「経験」。たとえば、チームマネジメントの経験や、新しい事業を興した経験がこれにあたります。

「人的資産」とは、一般にいう言葉だと「人脈」です。具体的には、仮に会社を変えたとしても、それでもあなたに仕事をくれる人がどれだけいるか? という「社外資産」と、あなたのために喜んで力を貸してくれる人が社内にどれだけいるか? という「社内資産」にわかれます(より詳しくは書籍で紹介しています)。

最後に「業界の生産性」とは「ひとり当たりの粗利」を指します。前回の記事で指摘したように、そもそも業界や会社は「ポジショニング」によってマーケットバリューが大きく変わります。

そして結論を言うと、「20代は専門性、30代は経験、40代は人的資産」で勝負することです。専門性は、誰でも努力で身につけることができ、先輩とも対等に勝負ができます。その専門性で会社に貢献した者だけに、マーケットで評価される「経験」を身につける機会は回ってきます。そして、40代になれば、自分だけでなく周囲の地位もあがり、人的資産の価値が上昇していきます。それぞれの年代にあったスキルを身につけること、これがまさに「マーケットを見て働くこと」に他なりません。

上司なんて最悪、無視。先に「市場」から評価されろ

ですが、現実はそこまで単純ではありません。ほとんどの人はこう思うでしょう。「でもさぁ、社内評価を無視してマーケットを見るなんて無理だよ。目の前のことに追われちゃうし……」と。

わかります。私も以前は日系の大企業にいたからです。ですが、それでも「マーケットからの評価」を第一にすべきです。

これには、説得力のある事例があります。

以前、ある国家公務員の方と話したとき、印象的な話がありました。その方はメディアにも積極的に出られている方だったのですが、私が「国家公務員なのによくメディア露出を役所が許してくれますね」と聞いたところ、彼はこう言いました。

「勝手に出てます。事後承諾です」

と。私は「度胸のある人だなぁ」と驚きましたが、話を聴くとどうやら「いいことずくめ」のようでした。日本は「逆輸入文化」が強く、「社外で認められている=社内でもすごい」となることがしばしばあります。「海外で有名な日本のアーティスト」や「海外で話題の日本料理」が後付で日本で評価を上げていく例を思い浮かべればわかりやすいでしょう。

結果的に社内でも「あの人ね!」となり、おもしろい仕事が回ってきたり、うまくコミュニーケーションがとれることが多いのだそうです。

国家公務員というある意味日本で一番、勝手なことができなそうな職種ですら、そうなのです。こうは言えないでしょうか。

上司なんて最悪、無視。先に「市場」から評価されれば価値は高まる、と。