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連載経済小説 東京崩壊
【第17回】 2012年4月18日
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高嶋哲夫 [作家]

震度7

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第2章

2

 庁舎の中は薄暗くエレベーターも動いていない。

 しかし相当数の職員がいて、慌ただしく行き来していた。地震のときにはまだかなりの人が残っていたのだ。帰宅を諦めて、途中で引き返してきた者もいるのだろう。

 自家発電で電気はきているが、廊下の明かりは半分が消されている。

 階段を駆け上がり、元の職場の総合政策局政策課に行った。

 一歩部屋の中に入って立ち止った。デスクの位置が変わり、部屋中に書類が散乱している。壁際にあったコピー機はデスクに当たって止まり、書類棚の半分は倒れてガラスが割れ、ファイルが床に散らばっている。

 部屋の中には誰もいない。

 「すぐに会議室に行け。緊急対策室が立ち上がっている」

 飛び込んできた職員が言って、デスクの上のパソコンをつかむとすぐにまた飛び出していった。

 森嶋は会議室に行った。

 部屋では30人ばかりの職員が入り乱れて作業をしていた。電話がひっきりなしに鳴り、職員が怒鳴るような声で対応している。

 正面のホワイトボードには数字と文字がぎっしりと書き込まれていた。報告のあった都内の被害情報だろう。

 森嶋は入口に突っ立っているだけだった。何をしていいか分からない。

 災害時のマニュアルは作られているが、この状況ではマニュアル通りの行動などとても不可能だ。

 携帯電話を見るとメールが入っている。優美子からかと思ったが、村津からの首都移転チームへの一斉メールだった。

〈明後日、定時に国交省に集合〉

 今日は泊りだなと思うと同時に、村津は来られるのかという疑問が頭に浮かんだ。おそらく明日1日は、東京の交通は混乱が続く。

 「大丈夫ですか」

 森嶋は入口横の椅子に座り込んでいる一年先輩の男に聞いた。

 「大丈夫なわけがないだろ」

 無愛想な声が帰ってくる。

 「やっと室内を片付けて、仕事が出来るようにしたんだ。何時間かかったと思う」

 「この庁舎は耐震補強されているんじゃないんですか」

 「だから壊れちゃいないだろ。ガラス一枚割れていない。しかし免震じゃないんだ。死ぬほど揺れたよ。その結果があれだ」

 先輩は廊下を隔ててドアが開いたままになっている部屋を指した。デスクと椅子が折り重なり、中に入れそうにない。

 「対応できる職員は何人ですか」

 「普段の半分以下だ。無理して招集をかけて怪我でもされたら困るからな」

 「招集をかけても来られません。都内の交通機関はすべて止まっています」

 「森嶋、お前はどうやって来たんだ」

 「新宿にいたので歩いてきました」

 「バカだな。そのまま家に帰れば良かったのに。当分帰れないぞ」

 「政府はどうなってるんですか」

 「そこまで分かるわけないだろ。省内のことで精一杯だ。とにかく被害状況の確認だ。この東京で一体何が起こってるんだ」

 先輩は独り言のように言うと立ち上がり、森嶋を押しのけるようにしてホワイトボードのほうに行った。

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

この国に住み続ける限り、巨大地震は必ずくる。もし巨大地震が東京を襲ったら、首都機能は完全に麻痺し、政治と経済がストップ。その損失額は110兆円にもおよび、日本発の世界恐慌にまで至るかもしれない――。今後、日本が取るべき道は何か。その答えを探る連載経済小説。

「連載経済小説 東京崩壊」

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