シニフィアンの共同代表3人による、企業の成長フェイズにおける「ステージチェンジ」をテーマにした放談、閑談、雑談、床屋談義の限りを尽くすシニフィ談の第4回(全8回)。
(ライター:福田滉平)

「空気の支配」を超えられない

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):『空気の研究』(山本七平)の話になってしまうけど、薄々誰もが感づいている身も蓋もない現実って、口に出しにくいんですよ。「これおかしいでしょ、変えましょうよ」って言った瞬間に、「一生懸命やってる人間がいるのに、お前はなんて酷いことを言うんだ」という感情論にすり替えられてしまう。よくある話でしょ。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):『空気の研究』に出てくる話で、誰もがおかしいと思うのに、なぜ大和が特攻したのかというエピソードがあるでしょ。「全般の空気よりして……」と書かれているのだけど、いやいや、空気で判断したらあかんやろ、と。

朝倉:軍令部の議論ではそんな空気感になっていると聞いて、当初は反対していた艦長が「それならば、何をか言わんや」と無謀な作戦に付き従ったという描写だけを読むと、後世の人間からすればちょっと理解しがたい判断ではある。
インパール作戦にしたって、そうでしょ。補給についてロクに検討することもなく、一発逆転を狙って牟田口中将がインドへの進攻を強硬に主張した。食料は現地で倒した敵から奪えばいいんだ、と。「アッサム州かベンガル州で死なせてくれ」と。周りにいた将校はどう考えても無謀だとわかっているから、それを聞いて唖然としていたわけでしょ。

小林:その時に強く反対した佐藤中将は、上官の命令に従わず、日本陸軍初の抗命事件として更迭されてますしね。結果的にはその抗命が兵士の生命を救うことになったのだけれど。

朝倉:作戦の不成功を想定するのは「必勝の信念に反する」という理屈で封殺されてしまった。で、牟田口中将の上官である河辺正三は、牟田口が熱意を持って推進してきた作戦だから「何とかして牟田口の意見を通してやりたい」と言っていたわけでしょ。じゃあこの惨憺たる結果に対して、一体誰が責任を持つのかという話になってしまう。挙句の果てに、前線は完全に破綻していても、牟田口は自分の口から中止とは言えず、「私の顔色で察してもらいたかった」と述べていると。こんな酷い話はない。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):海外からの日本の見られ方って、戦時中とそれほど変わってないと思いますよ。日本の個人・組織の特徴って言われると、あの時と変わっていない。言うべきことを言えない環境というのは、ステージチェンジを起こすべきときには決定的に不利に働くでしょう。

朝倉:これ、言い出したらほとんどの問題の原因がここに収斂してしまうのだけど、究極には教育の問題に行き着くでしょ。過剰に同調圧力をかけて、波風を立てることは悪とするわけですから。工業時代に最適化した教育の仕組みとしてはワークしたんでしょうけどね。
2017年の都議選の時に、ある議員が「『批判なき選挙、批判なき政治』を目指す」なんて真顔で言っていたじゃないですか。彼女の意図としては「誹謗中傷合戦の無い選挙活動を」と言いたかったのかもしれないけど、「批判のない」ってね。

小林:なるほどね。「批判」と「誹謗中傷」が同列に扱われているんやもんな。

朝倉:そうそう。こうした発言が違和感なく発せられている時点で、完全に教育の失敗だと思いますよ。人格攻撃になっちゃいけないけど、現状を虚心坦懐に見て、「このままじゃ、いけない」っていう議論はあって然るべきじゃないですか。その批判精神がないことには、「対論は何なのか」という話にも発展しない。
けどこうしたエピソードを、組織人はあながち馬鹿げた話だと笑ってもいられへんのとちゃうかな。