>>(上)より続く

「これも自分はギターなんでね。ドラマーさんなんかに比べたらセッティングにそう時間がかかるわけではないです。全員がそろって音出す瞬間なんて入り時間のだいぶ後だし。究極な話、ギターなんてなくてもみんなそう困らない。ドラムやベースだと話は違いますが。ギターがメインになる曲もあったりしますが、最悪自分がまだ着いていなかったらその曲をリハでやるのをちょっと後回しにしてもらえれば」

 一応約束の時間が設定されてはいるものの、自分が不在であるからといって現場が壊滅的状況に陥るわけではない……Bさんの遅刻癖はこれを計算に入れた上でのものであるようだ。

 とはいえ、時間通りに到着した方がいいとは思わないものなのだろうか?

「もちろん思います。遅刻しないに越したことはないですよね。焦って運転するのも疲れますし」

 ではなぜ?

「仕事が立て込んでいる時は寝る暇があまりないので、大体いつも眠いです。そうすると起きるのがつらいんですよね。目覚ましが鳴っても『あと5分、あと10分』とやってしまう。それが段々延長していって『あと5分』が累積して計30分とかになって結局遅刻するんですよね。でも思うんですが、そういう時って『あと30分』なら30分寝た方がいい気がするんです。それだけ体が睡眠を欲しているということなので、できるだけ寝て体調を万全に仕上げた方が相手に失礼じゃない」

 しかし結局それによって遅刻しているのだから、約束の時間を守れていないという点において相手に失礼になっているのではないだろうか。

「5分(睡眠時間を延長して)遅刻することによって、体調アップでクオリティーが上がり、2時間かかる仕事を10分で終わらせることができる。最初に遅刻で若干の失礼をかましてしまっても、あとでそれを補って余りあるものが提供できるので、それならみんなハッピーですよね」

 5分の睡眠延長でそこまで体調が改善するのか、5分寝坊ではなく5分早寝するという選択肢は本当になかったのか、仕事の推定所要時間がガバガバ過ぎないか、ハッピーなのはBさんの脳内のみではないのか――。釈然としないが、しかし身勝手さ極まる勢いゆえにその場では「そう…なのかな……?」とうなずかされてしまうようなBさんの自説を拝聴することができた。

 物事は見る角度を変えるだけでまったく違う意味合いを持つのだということに、改めて気づかされた次第である。