橘玲の世界投資見聞録 2018年7月27日

ロシアW杯会場となったカリーニングラードが辿った
900年におよぶ数奇な歴史
[橘玲の世界投資見聞録]

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 バルト海に面した港湾都市カリーニングラードは、ポーランドとリトアニアに挟まれたロシアの飛び地で、旧ソ連時代はバルチック艦隊の本拠地として軍関係者以外は入れない「閉鎖都市」だった。近年は観光振興にもちからを入れているようだが、訪れたことのあるひとは多くはないだろう。

 今回のロシア・ワールドカップではカリーニングラードも会場のひとつに選ばれ、グループリーグのスペイン×モロッコ戦やクロアチア×ナイジェリア戦、セルビア×スイス戦、イングランド×ベルギー戦が行なわれた。前回述べたように、ワールドカップ観戦の外国人旅行者は、FAN IDを提示することでロシア国内をどこでも自由に移動できるので、この得難い機会を活用すべくサンクトペテルブルクから空路1時間半ほどのカリーニングラードを訪れてみた。準々決勝が終わったあとで、カリーニングラードの街はワールドカップの喧騒からふだんの落ち着きを取り戻していた。

[参考記事]
●サッカーW杯観戦で観た予想外のロシア

ワールドカップ会場となったカリーニングラード。後ろに見えるのは「ソ連の家」で、後述するようにいまは廃墟だ     (Photo:ⒸAlt Invest Com) 

 

カリーニングラードは「プロイセン王国発祥の地」

 カリーニングラードはかつてはケーニヒスベルクといい、「プロイセン王国発祥の地」とされる。その歴史は12世紀の北方十字軍(バルト十字軍)までさかのぼる。

 西暦800年にフランク王カール(シャルルマーニュ)がローマ皇帝として戴冠され、ヨーロッパは史上はじめてひとつの統一体になった。だがフランク王国の東の境界はかつての西ドイツとほぼ同じで、ポーランドやチェコ、スロバキア、ハンガリーはもちろん、オーストリア東部やベルリン、ドレスデンなど旧東ドイツ地域も、キリスト教化されていない「蛮族」の暮らす土地だった。

 神聖ローマ帝国(ドイツ王)のハインリヒ4世がローマ教皇グレゴリウス7世と対立して破門されたカノッサの屈辱(1077年)の頃、ヨーロッパ全体では気候の温暖化や農業の技術革新で人口が急増し、ひとびとは開墾のための耕地拡大に躍起となった。そんななか、1095年のクレルモン公会議で十字軍遠征が提唱された。

 これはもちろん宗教的熱情に駆られたものだが、遠征に参加した諸侯・騎士のなかには領地の拡大を目論んだ者も多かった。ヨーロッパは長子相続が一般的で、第二子以降の男子は自らの手で土地と領民を獲得しなければ生きていく術がない、という事情もあった。

 第一次十字軍はイスラーム軍を打ち破りイェルサレム王国を建設したが、1144年に要塞エデッサが陥落するとその防衛が急務になった。そこで教皇エウゲニウスは十字軍参加者に「罪の赦免(贖宥)」を与え、留守家族の生活を保障したうえで、聖ベルナールをドイツでの勧誘に派遣した。

ケーニヒスベルク大聖堂の壁に残る中世の石板   (Photo:ⒸAlt Invest Com) 

 

 ベルナールはドイツ各地を訪れただけでなく、帝国議会で熱烈な演説をして皇帝以下ドイツ諸侯に遠征を説き、ドイツ国王コンラート3世をはじめ南ドイツの諸侯が参加を約したが、ザクセン大公をはじめとする北ドイツ諸侯はまったく興味を示さなかった。東の異教徒から常日頃脅威を受けている彼らからすれば、別の異教徒とたたかうためにはるか南にまで行く理由はなかった。

 すると聖ベルナールは一計を案じ、十字軍の解釈を大きく拡大して、異教徒であるバルト・スラヴ人(ヴェンデ人)を改宗させるか根絶することも聖戦だと位置づけた。これが北方十字軍だが、その実態は伝道の名の下での支配地域の拡大、すなわち侵略だった。

 この「侵略戦争」に参加した諸侯のうち、「獅子公」と呼ばれたザクセン公ハインリヒ3世はバルト海に面したリューベックを建設し、のちに北方貿易を独占して繁栄するハンザ同盟の基礎をつくった。

 13世紀になると、第3次十字軍でドイツ兵負傷者の手当をしていた病院兄弟団を起源とするドイツ騎士修道会が、皇帝フリードリヒ2世とローマ教皇から北方征服事業の資格を得て、さらに大規模な十字軍を組織した。この遠征によって騎士修道会は現在のポーランド領グダニスクからリトアニアに至るバルト海沿岸に領土を獲得した。

 ここはかつて蛮族プロイセン人の土地だったため、「プロイセン」と呼ばれることになった。その中心はグダニスクの南あるマリエンブルク(現在のポーランド領マルボルク)で、騎士修道会の本拠地もヴェネチアからマリエンブルク城に移された。それと同時に、バルト海交易の拠点として建設されたのがケーニヒスベルク、現在のカリーニングラードだ。

かつてバルト海交易の拠点だったカリーニングラードには、往時の面影を残す町並みがわずかに残っている         (Photo:ⒸAlt Invest Com) 

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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