橘玲の世界投資見聞録 2018年8月2日

ロシア有数のリゾート地ソチが臨む
黒海という存在
[橘玲の世界投資見聞録]

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 トルコ、ブルガニア、ルーマニア、ウクライナ、ロシア、ジョージア(グルジア)の6カ国に囲まれた黒海はヨーロッパ・中東の歴史に重要な役割を果たしてきたが、地中海に比べて影が薄い印象は否めない。私もこれまでイスタンブールからボスポラス海峡を眺めたことがあるだけだったが、今回、ワールドカップ観戦でロシアを旅行する機会に黒海沿岸の保養地ソチを訪れた。

 2014年冬季オリンピックの開催地でもあるこのリゾート地は、コーカサス山脈の北側に位置し、ロシア、アブハジア、グルジアなどのさまざまな民族が暮らす交易拠点だった。大きく発展したのはソ連時代で、スターリンをはじめとする指導者がここに別荘を構え、「ソビエトのリビエラ」と呼ばれた。

黒海のビーチで日光浴するひとたち。砂浜ではなく丸石なのでビーチチェアが必要  (Photo:ⒸAlt Invest Com)

 

ソチがロシアを代表するリゾート地になった理由

 地図を見れば明らかなようにロシアは典型的な内陸国で、ほとんどの海岸は北極海に近い寒帯に位置し冬期は航行できない。前回述べたように、バルト海に面した不凍港カリーニングラード(ケーニヒスベルク)がバルチック艦隊の軍事拠点になったのはそのためだ。

[参考記事]
●ロシアW杯会場となったカリーニングラードが辿った900年におよぶ数奇な歴史

 広大な国土をもつロシアには、冬期にも利用できる海はあとふたつしかない。ひとつはウラジオストックのある日本海、もうひとつがボスポラス海峡とダーダネルス海峡で地中海とつながる黒海だ。ロシア帝国が勃興した17世紀以降、黒海沿岸の港とふたつの海峡の支配権をめぐる列強の争いが激化したのはこのためだ。

 不凍港は軍事的に重要なだけではない。長い冬に港が凍ってしまっては、交易基地としても使えない。それと同時に、夏でも海水が冷たい北の海はリゾートにも適さない。

 ロシアや北欧・東欧など、冬の長い国では、夏のあいだに太陽に肌をさらさないと冬に病気になると信じられている。こうして短い夏にみなが日光浴に精を出すのだが、それに適したビーチはじつはものすごく少ない。

 ソチの南にはスフミやガグラといったリゾート地があるのだが、ここはソ連解体後にジョージア領となり、その後、アブハジア人の独立運動が興って「アブハジア共和国」の建国が宣言されたが、ジョージアはこれを認めず係争状態にある。

 もうひとつの代表的な黒海リゾートはクリミア半島のセバストポリとヤルタだが、こちらはソ連解体後にウクライナ領となり、2014年の住民投票でロシアへの編入が賛成多数となったものの、ウクライナはこの結果を認めておらずやはり係争状態にある。

 それに対してソチは冷戦終焉後の混乱に巻き込まれることなく、順調に発展することができた。資源価格の高騰でロシア経済が潤った2000年代には巨額の投資が行なわれ、国内の中産層が勃興したこともあり、いまや「ロシアのリビエラ」と呼ぶにふさわしいリゾートになっている。

 下の写真は海沿いの遊歩道だが、カフェやレストラン、土産物店が軒をつらねる様は、キリル文字の表記がなければ地中海リゾートといれわれてもわからないほどだ。ソチはロシア国内の「リゾート競争」で圧倒的に有利な立場にあるのだ。

ソチの海岸沿いの遊歩道。お洒落なカフェやレストランが並ぶ          (Photo:ⒸAlt Invest Com)

 

 私が訪れたのは7月はじめだが、ロシアでは6月から8月の3カ月が夏休みのようで、街は子ども連れの観光客で賑わっていた。宿泊したのはソチ市内の中心部にある大型リゾートホテルで、1泊1万5000円で朝食と夕食がついていた(ハーブボード)。宿泊客のほとんどはロシア人で、2度の食事をホテルのブッフェで済ませ、あとはビーチやプールサイドで過ごしていたようだが、それでも庶民がごくふつうにこうしたバカンスを楽しめるまでこの国がゆたかになったことがわかる。

 なお、ソチはジョージアの係争地アブハジア共和国と接しているが、近年は武力衝突は起きておらず治安が安定したことで、「国境」を超えてアブハジア側に手頃なリゾートを求めるロシア人観光客が増えているという。

高台からソチの街と黒海を眺める      (Photo:ⒸAlt Invest Com)
ソチの高台からコーカサス山脈を眺める。山の向こうはジョージアだが、「アブハジア共和国」として独立を宣言した       (Photo:ⒸAlt Invest Com)

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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