通信工事会社の事例

通信工事会社に「電話回線にトラブルがある」と男性からクレーム電話が入った。

「IP電話に雑音が入る」というのが主旨だが、電話応対の態度や工事体制などについても苦情を訴えた。

そこでまず、通信状態を改善するため、ルーターの交換に認定業者を派遣した。その時点で通信トラブルは解消されたが、今度は「なぜ、社員が出向いてこないのか。業者まかせにするのはけしからん!」と立腹し、訪問謝罪を求めてきた。

しかたなく、クレーム対応に長けた担当者が、お詫びに男性宅を訪問した。

すると、得意げに通信技術に関する持論を展開し、そのことに対する回答を求めた。しかし、その内容はクレームとはほとんど関係がない。どうやら、担当者を指導することで満足感を覚えているらしい。担当者は10分ほど経過したのを見計らって、こう言った。

「膝の具合が悪いので、足を崩させてください」

このひと言は、相手の要求を見極めるためのフェイントである。もし、「お詫びに来て、足を崩すとは何事だ!」と言われたら、「お詫びして、ご説明したいと思っていたのですが、お話しできないのですね」と辞去すればいいのだ。

実際には、「いやぁ、気がつかなかった」と座布団を出された。

しかし、座布団やクッションは遠慮する。

なぜなら、その座布団やクッションの下に、わざと壊れた眼鏡などが置かれていることがあるからだ。

男性の話はその後も続いたが、訪問してから30分が経ったとき、担当者はこう言って、席を立った。

「お話はよくわかりました。ただ、私ひとりでは判断できません。大切なことなので、しっかり協議してお答えいたします」

(了)

この担当者の対応は、合格点だと言えます。

「訪問先でなかなか帰してもらえません。これは罪にならないのですか?」

これも、私がよく受ける質問ですが、「途中で『帰らしてください』と言ったの?」と尋ねると、たいていは「そんなことを言える雰囲気じゃないですよ」という答えが返ってきます。

しかし、それでは2時間いても、3時間いても、罪は問えません。訪問先で何時間も缶詰め状態にされた場合、「すぐに結論は出せませんので、今日は帰してほしい」と、勇気を持って伝えなければなりません。

なぜなら、「帰りたい」と意思表示しているにもかかわらず、相手が強引に引き止めたり、拘束したりすれば、違法行為(強要罪)とみなされますが、こちらから意思表示をしなければ、強要罪が成立しないからです。

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ぜひ、使い倒していただき、万全の危機管理体制を整えた上で、「顧客満足」を追求してください。