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武闘派がなりを潜めた今
トップセールスが考えるパワハラとは

 Bさん(32歳女性)は、こちらも一部上場企業の社員で、「全国8000人いる営業員のうち、指折りの一人。女性ではナンバーワン」という輝かしい実力のトップセールスである。彼女もまた苛烈なパワハラにさらされて育ってきた。「パワハラが当たり前の企業風土に洗脳されている」と自認しつつ、パワハラのメリットとデメリットを分析している。

「メリットですが、まず人間関係が構築しやすいです。アメとムチの一番わかりやすい形というか。上に詰められて詰められて、精神状態もボロボロなところまで追い込まれて、ようやく与えられた課題をクリアできると、社内で思いっきり褒めてもらえたり、上が飲みに連れていってくれてそこでねぎらわれる…。

 これが効果てきめんで、『この仕事をしていてよかった』とか『この人についていこう』と思わされます。馬鹿みたいに単純な方法で、自分の単純さを痛感させられもするのですが(笑)。それまでの苦難の道のりは全てゴールのためにあったと思えて、達成感が格別で、何しろ心地いいです。今ではパワハラに当たるやり方でゴリゴリに詰めてきていた“武闘派”と呼ばれる上の世代の人たちは、褒め方が上手でした。

 上と下で信頼関係ができると仕事が全体的に楽しくなってくるので、意欲が上がってさらに成績が上がって…といういい循環に入ることができます」(Bさん)

 DV加害者が、暴力と甘い言葉を使い分ける手法とも似ている気がするが……。なおBさんの会社もご多分に漏れずパワハラが沈静化しつつある状況にある。

「パワハラされていた時の思い出話はすごく盛り上がります。『あの頃きつかったなあ……でも一番楽しかったな』というような。誰でも自分の過ごしてきた時間に意味を持たせたい気持ちがあると思うので、それも手伝って、だとは思いますが」

 きつかった時分の思い出は終わってしまえば楽しいものに変わる。Aさんの話にもあったが、「それを乗り越えることができたら」という条件付きではあるが。乗り越えられなかった人にとって、そうした思い出は暗黒のものとして記憶されるのであろう。