『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』では毎月、さまざまな特集を実施しています。ここでは、最新号への理解をさらに深めていただけるよう、特集テーマに関連する過去の論文をご紹介します。

 2018年10月号の特集タイトルは「競争戦略より大切なこと」である。長年にわたり、経営層がまず注力すべきは競争戦略の立案であり、オペレーション効率はミドル以下に任せておけばよいとされてきた。しかし、このほど行われた世界経営調査により、経営管理能力の絶えざる向上こそが、競争優位を生み出すということが明らかになった。今月の特集では、米国で話題をさらったマッキンゼー賞受賞論文を軸に、真に強い企業の「競争力の源泉」を再考する。

 ハーバード・ビジネス・スクール准教授のラファエラ・サドゥンらによる「競争戦略より大切なこと」は、2017年度の『ハーバード・ビジネス・レビュー』マッキンゼー賞受賞論文である。経営管理能力は模倣が容易で、競争優位には貢献しない。だから、企業の足腰を支えるオペレーションや効率化はミドルマネジャー以下に任せ、経営層はもっと高尚な戦略策定に専念すべきだとする考え方がある。しかし、筆者らが世界1万2000社以上を対象に行った大規模調査では、マネジメント・プラクティスに秀でた企業は、高業績を上げていることが判明した。しかも、組織内で浸透・徹底させるには時間がかかり、容易に模倣しにくいことも明らかとなった。

 マイケル E. ポーターによる「戦略の本質」は、「競争戦略より大切なこと」で展開される議論の土台となった論文である。DHBR2011年6月号収録の「[新訳]戦略の本質」を抄訳した。戦略とは何か。マイケル E. ポーターによれば、他社にはない「独自性」に優れたポジショニングであり、これを担保する「活動システム」の構築であり、そのために「トレードオフ」を受け入れることであり、したがって「何をやり、何をやらないのか」を選択することだという。本稿は、ポーターの代表作『競争の戦略』と『競争優位の戦略』をめぐるさまざまな議論への答えであり、また反論でもある。

 一橋大学大学院特任教授の名和高司氏による「『学習優位』の競争戦略」では、非連続な変化の環境を生き抜くことに必要な「学習優位の経営」という施策を提示する。未来や市場を見通した的確な戦略も、他に比類ない水準の経営実践力も、持続的な競争優位を保証するものではない。そんな厳しい時代においても成長を続けた世界企業100社を分析した筆者は、強い競争力に共通する4つの要因を抽出した。

 ヤマハ発動機の柳弘之会長へのインタビュー「経営とは『やり抜くこと』である」では、同社を社長として8年間ハンドリングした柳会長から見た、「真に強い経営」とは何かが語られる。リーマンショック後、約2000億円の最終赤字を出したヤマハ発動機。その立て直しを行ったのが、柳弘之会長である。構造改革を実施、V字回復を果たし、営業利益率は3%台から9%台にまで改善した。さらに技術開発への投資を拡大し、新興市場での新たなブランド構築へとつなげ、次なる成長の道筋を立てた。

 安川電機の小笠原浩社長へのインタビュー「コアコンピタンスを顧客と磨く」では、同社の競争優位の源泉が明かされる。自社が成長できる市場を見極め、事業を選択して、そこに経営資源を集中投入する。事業を展開していく中で、コアコンピタンスを磨き続ける。理論通りの経営で長期間、高収益を続ける安川電機。選別した有力顧客と密接な関係になって、ともに成長を果たす戦略はB2B事業ならでは、である。最強の競合かつ最大の顧客になりうる中国企業とも選別提携して、競争優位を持続している。