社員を守り抜く姿勢が
モチベーションを高める

 人を大切にする会社の具体例として、坂本氏はいくつかの企業を挙げる。

「九州のある企業は、不況のときに売り上げが7割減りましたが、一人も解雇しませんでした。従業員の給料を維持して、社長の給料は1ドルにしたそうです。すると、従業員は『社長の給料を元通りにしよう』と頑張り、ほどなく業績を回復することができました。また、宮城県のメーカーは、東日本大震災で工場のほとんどが全壊。それでも雇用を守り抜き、半年後に業績を回復させることができました。社長の姿勢に従業員は感激し、皆が必死で働いたからです」

 福島県の建設会社は、社員が現役のまま死亡または就労困難な状況になったときに、その子供が大学を卒業するまで学資の面倒を見るという制度をつくった。実際にそうした例があって、社員からの提案で生まれた制度だという。

 従業員とその家族に対する経営者の思いは、自然と社内に伝わる。「自分たちが大切にされている」とわかれば、社員にやる気が起こらないはずがない。ここで紹介したような企業に近づくためには、どのようなアプローチが求められるだろうか。

従業員はどんな気持ちで
日々働いているか?

 従業員は「自分たちは大切にされている」と感じているか。また、やる気を持って仕事をしているだろうか。まず、経営者はその現状を知る必要があると坂本氏が言う。

「社員に対する意識調査などにより、現状を把握することが重要です。調査をすると、さまざまな不満の声が集まるでしょう。非現実的な要望もあると思いますが、中には、ちょっとした工夫で実現可能なこともある。その要望に対処すれば、『自分たちの声をちゃんと聞いてくれる』と実感されるでしょう」

 坂本氏は面談も重視している。「できれば面談を年2回、最低でも年1回実施することが望ましい」と坂本氏。さらに、こう続ける。

「100人程度までの企業なら社長、それよりも大規模な企業であれば部課長が各社員との面談を行います。仕事の中での悩みを聞いたり、家族のことを話すことで、会社としてなすべき課題が見えてくるはずです」

 従業員がどんな気持ちで日々働いているのか。それを知るための努力は、経営者にとって本質ともいえる仕事である。

「従業員が働きがいを感じているか、あるいは十分に能力を発揮しているか。日本企業のレベルは、先進国の中でも最低の水準にあるといわれます。そのレベルを少し高めるだけで、会社の雰囲気は変わり業績も大きく向上します」と坂本氏。そのための第一歩が、働いている人のことを知り、人を大切にすることなのである。

 社員の気持ちや考えに加え、実際にどのような健康状態にあるのかなど、経営者が知っておくべきことは多い。一方の社員の側では、「知ってほしいけれども、こちらからは言いづらい」という心理があるだろう。そうした障壁を乗り越え、社員と経営層の距離を縮める方法を、第2部では紹介していく。