「私は一介の公務員です。このような場所には慣れていないので、早めに要件をお聞きして――」
「そうでしたな。失礼をした。私たちは超党派の集まりを持っています。いつもなら気楽な勉強会なのだが、微妙な時期なのであまり公にはしたくないのです」
「新しいセクションでの仕事はいかがですか。突然の移動で驚かれたのではないですか」
大野が場の空気を和ませるように話題を変えた。
「ご存じなんですか。世間的にはあまり知られていない部署だと思っていました」
「村津君とは先週会いました。彼とは大学の同期です。ゼミも同じでした。彼は旧建設省に入り、私は大学に残った。彼のほうが成績は良かったんですがね。実は、村津君が退官したとき大学に来るように声をかけたのですが、断わられました」
早苗に聞いた退官後の村津が森嶋の頭を掠めた。
「村津さんをご存知なら、なぜ私をこのような席に。仕事に関して聞きたいことがあれば、いつでも説明にまいります」
「あなたは村津君からの推薦です。細かいことにとらわれず、大局を見ることが出来る若手官僚だと。現在、彼はあまり多くの人と会うとまずい立場です。特にこのような席ではね。それに、まだ国民には発表されていない。この地震で、またしばらく伸びるでしょう」
「すでに官報には載っているはずです」
「首都移転チームがさほど広められていないということです」
たしかにマスコミには忘れられた存在だ。
食事が運ばれてきた。
店の従業員も、このような会合やメンバーには慣れているらしく、無言で料理を出して去っていく。
「アメリカに行ってたそうですね。どちらです」
突然、殿塚が聞いた。
「ハーバードです」
「あそこはいいところだ。私も昔、1年いた」
殿塚は財務省出身の政治家だ。財務省時代に留学したのだろう。
「アメリカは広い。1年間の留学の終わりに、1週間かけて列車で大陸を横断しました。途中下車をしながらね」
殿塚は懐かしそうに言った。
さて、と言って森嶋を見つめた。