米国では昨今、上場企業の数が減少傾向にあるという。株式市場が経済のバロメーターであるという考え方に基づけば、この変化は憂うべきことのようにも思える。しかし、イノベーション理論の大家ゴビンダラジャンらによれば、この潮流はデジタル企業の台頭による必然であり、むしろ称賛すべきことだという。


 イーロン・マスクは最近、テスラの株式の非公開化を検討中だとツイートした。米国の証券取引所への上場を取り下げるという意味である(訳注:その後、米証券取引委員会がマスクを証券詐欺の疑いで提訴。罰金、会長職辞任、外部取締役の加入を条件に和解)。

 これと関連するが、米国の証券取引所に上場する企業の数は、減少が進んでいる。時価総額の総計は劇的に増加しているにもかかわらず、上場企業数は、1996年をピークに50%近く減っているのだ。

 この論議を呼ぶ潮流については、多くの推測が提示されてきたが、我々は新たな説明を提示したい。それは、米国経済における、デジタル企業の役割の高まりである。

 上場企業数の減少は、次の3つの展開によって起こりうる。(1)上場企業の破産、倒産、あるいは撤退。(2)株式非公開化、あるいは買収した企業による上場取り下げ。(3)新規上場(IPO)をする企業の減少。

 これら3つの要因は、いずれも時とともに一般的になっている。その根底にあるのは、企業のビジネスモデルが無形資産および知識への投資にますます頼っていることであると、我々は考える。

 新興のデジタル企業は、知識、戦略、専門家人材を武器に競い、最大手の既存企業にさえも攻撃を挑む。これらの企業はリーン(スリム)な組織で操業し、クラウドやインターネットを基盤としたインフラを用いる。それによって、工場、倉庫、在庫、サプライヤーを携えて競争する企業よりも、製品をより迅速にリリースし流通させる。

 早まっているのは、企業の寿命もまた同様だ。我々の調査によれば、企業の上場期間は、1960年からの10年間ごとに、かなり短くなっている。さらなる分析の結果、この潮流は単に、被買収が原因ではないことが確認された。企業の上場廃止までの期間は、経営難を理由に上場廃止した会社のみに対象を絞っても、短くなっているのだ。

 さらに、製造拠点がアジアにシフトし、ますます多くの米国企業がデジタル戦略に向かうにつれて、企業は、財務、マーケティング、製造、流通、会計、人事などの仰々しい部門を必要としなくなってきている。これらの機能は、依然として必要とされる場合には、デジタル・プラットフォームを利用して外部に委託されている。

 要するに、デジタル戦略と技術の急速な陳腐化により、既存の上場企業の上場廃止率が高まっているが、その分、IPOの需要が高まっているというわけでもない。我々は、この潮流こそが、上場企業数減少の唯一最大の原因だと考える。

 この結論は、次の事実によって裏付けられる。21世紀の最初の5年間3期(2001~2005年、2005~2010年、2011~2015年)それぞれで、正味上場廃止企業数(上場廃止企業数から上場企業数を差し引いた数)が最も多く見られたのは、ソフトウェア、エレクトロニクス、コンピュータ業界であった。

 企業のデジタル化の潮流は、合併・買収(M&A)のペースも加速させている(毎年、最高レベルを塗り替え続けている)。20世紀型の企業にとって、土地、建物、工場が貴重だったのと同じように、デジタル企業は貴重な無形資産を保有している。このため、成功を収めているデジタル企業は、たとえ損失を出していても魅力的な買収対象となる。買収先企業は、手に入れた無形資産を自社の資産と混合・調和させることで価値を生み出せるからだ。

 米通信大手のベライゾンに約44億ドルで買収された米ヤフー、フェイスブックに190億ドルで買収されたWhatsapp(ワッツアップ)を考えてみてほしい。このような買収は、先行者利益の強化、技術発展の速さ、ネットワーク外部性によって、いっそう有益性を高める。

 したがって、新興デジタル企業の主な戦略は、「速く成長して買収される」ことになっている。ゆっくりと堅実に成長して利益を出し、新規株式公開を行うことではない。M&A活動が増え続ければ、上場企業数は自然に減少していくわけだ。